宝亀の乱

宝亀の乱とは

宝亀の乱（ほうきのらん）は、奈良時代の宝亀11年（780年）に、現在の東北地方で発生した大きな反乱です。この反乱は、陸奥国上治郡の蝦夷の族長である伊治呰麻呂によって引き起こされました。伊治呰麻呂は、反乱の首謀者として「伊治公呰麻呂の乱」または「伊治呰麻呂の乱」と呼ばれることもあります。ここでは、乱の背景、経過、影響について詳しく見ていきます。

経緯と背景

乱の発生は、宝亀11年の春、具体的には3月22日（西暦780年5月1日）です。この当時、陸奥按察使を務めていた紀広純は、地域の防衛のために覚鱉城の建設を進める許可を得て、伊治城に軍を駐留させました。伊治呰麻呂は、彼らを襲撃する計画を立て、自ら反乱を起こしました。この計画の背景には、伊治呰麻呂が紀広純と道嶋大楯に過去に受けた侮辱と充実した地位を持ちながら、彼らからの偏見に苦しんでいたことがあります。

また、当時の政府による皇族支配は、蝦夷層との対立を深める要因となっていました。特に、藤原仲麻呂政権以降、東北地方への進出が強化され、地元住民である蝦夷との摩擦が増加していたことが、反乱を引き起こす要因となったのです。

反乱の発生と展開

反乱は、首謀者伊治呰麻呂の従者たちにより、紀広純と道嶋大楯が同時に襲撃される形で開始されました。伊治呰麻呂はまず道嶋を殺害し、続いて紀広純に襲いかかり、彼も弑（し）しました。これにより、反乱軍は陸奥国府の多賀城へ進撃し、物資を略奪の上、城を焼き払いました。紀広純と大楯の両者が殺害され、陸奥国府の拠点である多賀城が陥落したことは、奈良時代の中央政府にとって衝撃的な出来事でした。

反乱を受け、政府は急遽征東大使として藤原継縄を派遣し、軍事的な鎮圧を図ります。しかし、反乱が発生した後も、政府側の軍事行動は遅れ、反乱地域の情勢はますます不安定になっていきました。反乱は、呰麻呂が追捕されることもなく、混乱の中に埋もれてしまいました。

乱からの影響

宝亀の乱は、陸奥国や出羽国に多大な影響を及ぼしました。この乱に連動して、出羽国でも蝦夷が蜂起し、地元の村々に襲撃をかけました。そして、宝亀11年には軍が編成され、出羽鎮狄将軍に安倍家麻呂が任命され、緊張状態が続きました。また、秋田城を通じて政府が牽制していた蝦夷たちも、秋田城の機能が停止したことで離反し、自らの生存と安全を保障するために反乱に加わっていったことが伺えます。

結び

宝亀の乱は、歴史において重要な転機を示しています。最終的に、この乱は奈良時代の中央政府と蝦夷との関係を一層悪化させることとなり、その後の政治情勢に影を落とすことになります。反乱の首謀者であった呰麻呂の不明や、動乱の長期化は、中央政府が東北地方を制圧する難しさを物語っています。彼の死後、政府は再び同様の反乱に悩まされ、蝦夷との対立は続いていくこととなるのです。

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