鎮狄将軍

鎮狄将軍（ちんてきしょうぐん）とは

鎮狄将軍は、日本の奈良時代に臨時に設けられた令外官の官職で、蝦夷征討の際に任命された将軍の一種です。主に日本海側を進軍する部隊を指揮する役割を担いました。

鎮狄将軍の役割と位置づけ

蝦夷征討においては、進軍ルートに応じて将軍が任命され、太平洋側を進む軍を率いる将軍は征夷将軍（または征東将軍）、九州方面へ向かう軍を率いる将軍は征西将軍（または鎮西将軍）と呼ばれました。これらの呼称は、中華思想における「四夷」の概念（東夷・西戎・南蛮・北狄）に由来するとされています。

鎮狄将軍は、このうち「北狄」に対する軍事作戦を指揮する将軍という位置づけになります。

鎮狄将軍任命の経緯

日本海側を進む軍を率いる最初の将軍は、和銅2年（709年）に任命された佐伯石湯です。当時、陸奥・越後の蝦夷が良民を苦しめていたため、陸奥鎮東将軍の巨勢麻呂と同時に任命されました。佐伯石湯は当初「征越後蝦夷将軍」と称され、凱旋の際には「征蝦夷将軍」、褒賞の際には「征狄将軍」と呼ばれるなど、呼称は統一されていませんでしたが、鎮狄将軍の最初の例と見なされています。

なお、これに先立つ和銅元年（708年）には越後国に出羽郡が設置され、後の和銅5年（714年）には出羽国となりました。これは、蝦夷に対する備えを強化する動きの一環と考えられます。

養老4年（720年）には、陸奥国で蝦夷の反乱が発生し、陸奥按察使の上毛野廣人が殺害される事件が起きました。これを受けて、多治比縣守が持節征夷将軍に、阿倍駿河が持節鎮狄将軍に任命され、それぞれ蝦夷鎮圧の任にあたりました。

その後も、陸奥国での事件が発生するたびに、征夷将軍の任命に合わせて鎮狄将軍が任命され、日本海側の鎮圧に当たりました。神亀元年（724年）には、陸奥大掾の佐伯児屋麻呂が殺害される事件が起こり、藤原宇合が持節大将軍に任じられるとともに、小野牛養が鎮狄将軍に任命されました。宝亀11年（780年）に陸奥国伊治郡で伊治呰麻呂の乱が発生し、陸奥按察使の紀広純が殺害された際には、藤原継縄が征東大使に任じられた翌日、安倍家麻呂が出羽鎮狄将軍に任命されています。

鎮狄将軍の終焉

しかし、その後は秋田城に出羽介を長とする鎮守部隊が置かれ、陸奥国の蝦夷征討のために大規模な軍を率いる征夷大将軍が任命されるようになると、鎮狄将軍は任命されなくなりました。これは、蝦夷に対する軍事戦略の変化、鎮守府の機能強化などが背景にあると考えられます。

鎮狄将軍は、奈良時代の一時期に、蝦夷征討における日本海側の防衛・征討を担った重要な役職でしたが、時代の変遷とともにその役割を終えたと言えるでしょう。

関連項目

征夷大将軍
征東大将軍
征西大将軍
征討大将軍
* 鎮守府将軍

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