紀広純

紀広純（きのひろずみ）：蝦夷征討に奔走した公卿

紀広純は、奈良時代に活躍した公卿です。大納言・紀麻呂を祖父に持ち、左衛士督・紀宇美の子として生まれました。最終的な官位は従四位下・参議で、勲四等も授けられています。

官僚としての道のり

広純は、天平宝字2年（758年）に北陸道問民苦使に任ぜられたのが記録に残る最初の役職です。その後、天平宝字7年（763年）には従五位下・大宰員外少弐に叙任されました。天平宝字8年（764年）の藤原仲麻呂の乱では、大宰府にいたためか活動の記録はありません。しかし、翌天平神護元年（765年）には薩摩守に左遷されています。神護景雲2年（768年）には筑後守に復帰しました。

光仁天皇の時代に入ると、宝亀2年（771年）に左少弁に任ぜられて京官として中央に戻り、宝亀4年（773年）には従五位上に叙せられました。宝亀5年（774年）には、新羅使・金三玄が大宰府に渡来した際、河内守の任にありながら、大外記・内蔵全成と共に大宰府へ派遣され、来朝の理由を問う役目を果たしました。

蝦夷征討への従事

同年7月には鎮守副将軍を兼任し、陸奥守兼鎮守将軍・大伴駿河麻呂の下で蝦夷征討に携わりました。宝亀6年（775年）9月には本官が河内守から陸奥介に変更となり、同年11月には反乱を起こして桃生城へ攻め寄せた蝦夷を鎮圧した功績により、正五位下・勲五等に叙せられました。その後も蝦夷征討に従事し、陸奥守、陸奥国按察使、鎮守将軍を歴任しました。

宝亀8年（777年）12月には、出羽国志波村の蝦夷を鎮圧しようとして敗退したことを報告。これを受けて、鎮守権副将軍に任ぜられた佐伯久良麻呂の加勢によって蝦夷の鎮圧に成功したと見られ、翌宝亀9年（778年）6月には従四位下・勲四等に叙せられています。

宝亀の乱と最期

宝亀11年（780年）2月、参議に任ぜられ公卿に列しました。広純は覚鼈柵という砦を築き、警備兵を配置。3月22日、伊治郡大領・伊治呰麻呂率いる蝦夷軍と共に伊治城に入りましたが、密かに反乱を企てていた呰麻呂によって殺害されました。これが「宝亀の乱」です。最終官位は按察使参議従四位下でした。

人物像と評価

広純は、政務を執り行う才能があると評価されていました。彼を殺害した伊治呰麻呂は、個人的な理由から広純を嫌っていましたが、表面的には従順な態度を示していました。広純は呰麻呂を信用し、警戒していなかったようです。

紀広純は、地方官として、また蝦夷征討の指揮官として、激動の時代を生きた人物でした。しかし、信頼していた人物の裏切りによって、志半ばで命を落とすこととなりました。

官歴

時期不詳：正六位上
天平宝字2年（758年） 正月5日：北陸道問民苦使
天平宝字7年（763年） 正月9日：従五位下、大宰員外少弐
時期不詳：大宰少弐
天平神護元年（765年） 2月5日：薩摩守
神護景雲2年（768年） 6月29日：筑後守
宝亀2年（771年） 閏3月1日：左少弁。5月14日：美濃介
宝亀4年（773年） 正月7日：従五位上
宝亀5年（774年） 3月5日：河内守。7月23日：兼鎮守副将軍
宝亀6年（775年） 9月13日：陸奥介、兼鎮守副将軍如元。11月15日：正五位下、勲五等
時期不詳：陸奥守
宝亀8年（777年） 5月27日：陸奥按察使。12月14日：見陸奥鎮守将軍
宝亀9年（778年） 6月25日：従四位下、勲四等
宝亀11年（780年） 2月1日：参議

系譜

父：紀宇美
母：不詳
生母不明の子女
男子：紀和気麻呂
* 女子：紀吉継（?-784）

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