宝石学

宝石学（Gemology）は、宝石を科学的な手法で識別し、その価値を評価する学問領域です。地質学や鉱物学といった地球科学の一分野として位置づけられています。

概要

宝石学では、宝石の結晶構造、比重、屈折率、多色性、その他の光学特性など、多岐にわたる特徴を詳細に分析することで、宝石の種類を特定します。天然石と人工石の区別、傷の修復や着色の有無といった処理の有無も識別対象です。

原石の状態にある宝石は、まず母岩となる岩石や鉱物の組み合わせ、表面の特徴、条痕色などが調査されます。さらに、色、屈折率、光学特性、比重、拡大検査による内部の特徴を総合的に判断し、識別を行います。カッティングや研磨といった加工についても、その品質が評価されます。

宝石内部の微細な特徴（インクルージョン）を研究することで、含有する流体を明らかにする研究分野も存在します。例えば、色を向上させるための加熱処理が行われた場合、その熱によって部分的に融解した結晶インクルージョンが確認されることがあります。これにより、人工的な処理が施されたものか、天然のままの宝石かを識別することが可能になります。

分光分析によって原子構造や化学組成を判別することで、宝石の起源を特定することもできます。ミャンマー産のルビーとタイ産のルビーでは、内部構造や光学的な特徴に明確な違いが見られることがあります。硬度も宝石を扱う上で重要な要素であり、物理的な硬度は非線形のモース硬度によって定義されます。

宝石学には専門的な教育機関や資格が存在し、世界各国に宝石学協会があります。ダイヤモンド専門のように、特定の宝石のみを専門に扱う専門家も存在します。近年では、宝石の処理技術、新しい合成石、その他の新素材といった新たな課題に対応するため、高度な設備と経験が求められています。

宝石学で使用する機材

宝石学では、宝石の特徴や特性を識別するために、さまざまな機材が用いられます。

一般的な機材

補正10倍ルーペ
顕微鏡
屈折計
偏光フィルター
RI（屈折率）1.81までの接触液
偏光器
コノスコープ
二色鏡
分光器
ペンライト
ピンセット
ストーンクロス
カラーフィルター
比重測定用の秤、重液
紫外線ライト

高度な専門機材

X線写真
X線蛍光装置
X線回折（XRD）
XRF
走査型電子顕微鏡（SEM）
赤外線分光装置
FTIR
UV-Vis-NIR
レーザ・ラマン分光計（LRS）
ICP-MS

一般的な識別方法

宝石の識別は、基本的に消去法によって行われます。類似した色を示す宝石が複数存在する場合、宝石の種類を特定できるまで、非破壊的な光学検査を継続する必要があります。単一の検査だけでは、特徴の一部分しか把握できません。

例えば、ルビーの比重は4.00ですが、ガラスの場合は3.15から4.20の間、ジルコニアの場合は5.6から5.9の値を示します。したがって、ルビーとガラスをジルコニアから区別することは容易です。しかし、この時点ではルビーとガラスの区別はできません。

宝石は、その生成過程において地質学的な環境からの影響を受けます。そのため、化学的な不純物や置換物質を含み、構造的な欠陥を有することがあり、それらが宝石の個性となります。

屈折率

光がある媒質から別の媒質へ進む際に屈折する現象を利用し、その屈折率を測定することは、宝石の識別に有効な手段の一つです。光がどの程度の角度で屈折するかは鉱物によって異なります。光の入射角がある一定の角度を超えると全反射が起こります。この時の入射角を臨界角といい、この角度を測定することで宝石を識別します。通常、屈折計が用いられます。

比重

比重は相対密度とも呼ばれ、宝石の化学組成と結晶構造によって異なります。大きな宝石や原石の場合は、秤を使用してアルキメデスの原理に基づき、空気中での重さと水中に沈めた状態での重さを比較することで測定します。比重が既知の重液も検査に使用されます。

分光

分光法は、プリズムや回折格子が白色光をその構成色に分離する原理を利用しています。宝石用分光器は、宝石素材における光の選択的な吸収を分析するために使用されます。着色剤または発色団は、分光器内で吸収による特定のパターンを示し、宝石の色の原因となる要素を示します。波長はナノメートル単位で測定されます。

インクルージョン

インクルージョン（内包物）は、宝石が天然であるか、合成であるか、または何らかの処理が施されているかを判断する上で重要な情報を提供します。また、宝石によっては産地を特定する手がかりとなることもあります。インクルージョンの検査には、10倍ルーペや宝石用顕微鏡が使用されます。

関連項目

宝石
鉱物学
Gem-A（英国宝石学協会）
GIA (Gemological Institute of America)
宝石学会(日本)

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