岸政彦

岸政彦（きし まさひこ）は、1967年生まれの日本の社会学者、小説家です。現在は京都大学大学院文学研究科教授として、社会学研究室で教鞭を執っています。彼の専門は、社会調査方法論、生活史研究、そして沖縄における質的調査です。

関西大学社会学部を卒業後、大阪市立大学大学院文学研究科博士課程を単位取得退学。2003年には大阪市立大学より博士（文学）の学位を取得しました。2006年からは龍谷大学社会学部の教員として、2017年からは立命館大学大学院先端総合学術研究科の教授として活躍。2023年より現職である京都大学大学院文学研究科教授に着任しました。パートナーは社会学者の齋藤直子氏（大阪教育大学地域連携・教育推進センター特任准教授）です。

岸氏の研究テーマは多岐にわたりますが、特に沖縄、生活史、社会調査方法論に焦点を当てています。2015年に刊行された『断片的なものの社会学』は、「紀伊國屋じんぶん大賞2016」を受賞するなど、社会学界に大きな反響を呼びました。この著書は、社会の断片的な側面を捉え、従来の社会学の枠組みにとらわれない新しい視点を提供しています。

社会学者としての活動の一方で、小説家としても才能を発揮しています。初の小説作品「ビニール傘」（『新潮』2016年9月号掲載）は、第156回芥川龍之介賞と第30回三島由紀夫賞の候補作となりました。2019年には、小説「図書室」で第32回三島由紀夫賞候補に、2021年には小説『リリアン』で第34回三島由紀夫賞候補となり、同作にて第38回織田作之助賞を受賞しています。これらの小説作品は、社会の底辺で生きる人々の姿を繊細な筆致で描き出し、読者の心を揺さぶります。

また、共著『地元を生きる：沖縄的共同性の社会学』は第7回（2021年度）沖縄書店大賞候補となり、編著『東京の生活史』では「紀伊國屋じんぶん大賞2022」大賞と第76回毎日出版文化賞を受賞しています。2024年には、エッセイ集『大阪』（小説家柴崎友香氏との共著）で、第12回大阪ほんま本大賞特別賞を受賞しました。

2020年からは、東京、沖縄、大阪の各地で、それぞれ100～150名の「聞き手」を公募するという大規模な生活史プロジェクトを実施。その成果が2021年～2023年に三部作として刊行され、大きな話題となりました。このプロジェクトは、現代社会における人々の生活の実態を明らかにし、社会学研究に新たな視点をもたらすものとして高く評価されています。

さらに、2023年に刊行が始まった「岩波講座・社会学」全13巻の編集委員も務めており、社会学の発展に大きく貢献しています。他の編集委員は、北田暁大、筒井淳也、丸山里美、山根純佳といった著名な社会学者たちです。

岸政彦は、社会学者、小説家として、現代社会の様々な問題に鋭い視点を向け、その成果を著作や研究活動を通じて社会に還元しています。今後の活躍も大いに期待される、注目の研究者です。

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