川久保賜紀

川久保 賜紀（かわくぼ たまき）氏は、1979年10月10日、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスで誕生したヴァイオリニストです。彼女のレコーディングは、主にエイベックス・クラシックスよりリリースされています。

幼少期から音楽教育

ロサンゼルスで育った川久保氏は、4歳でピアノを、そして5歳でヴァイオリンを始めました。コルボーン音楽院でロバート・リプセット氏に師事した後、ジュリアード音楽院へ進み、ドロシー・ディレイ氏と川崎雅夫氏に指導を受けました。学生時代からその才能は注目され、1991年公開のアメリカ映画「フォー・ザ・ボーイズ」では、ヴァイオリンを演奏する少女タマキ役で出演し、演技と演奏の両面で高い評価を得ました。さらに1994年には、ジョン・ウィリアムズ氏が指揮するボストン・ポップス・オーケストラと共演したサン＝サーンス作曲「序奏とロンド・カプリチオーソ」の演奏がアメリカ国内でテレビ放映され、その存在を知らしめました。

ドイツ留学と国際的な活躍

16歳となった1995年、川久保氏はドイツのリューベック音楽院に留学し、ザハール・ブロン氏のもとで研鑽を積みました。師のケルン音楽大学への移籍に伴い、自身も同大学へ移り、引き続きブロン氏の指導を受けました。1997年にはエイブリー・フィッシャー賞を受賞。同年には記念すべき初来日公演として、東京国際フォーラムのこけら落としで、チョン・ミョンフン氏指揮のアジア・フィルハーモニー管弦楽団と共にチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏しました。

コンクールでの栄誉と演奏活動の広がり

2000年代に入ると、川久保氏は国際的なコンクールで立て続けに輝かしい成績を収めます。2001年には第6回パブロ・サラサーテ国際ヴァイオリン・コンクールで第1位に輝き、翌2002年には権威ある第12回チャイコフスキー国際コンクールで最高位を獲得しました。これらの受賞を機に、クリーヴランド管弦楽団、デトロイト交響楽団、サンフランシスコ交響楽団といったアメリカの主要オーケストラをはじめ、世界各地のオーケストラと共演を重ねました。日本国内でも精力的にリサイタルやツアーを行い、2004年には出光音楽賞を受賞しています。その後も、チューリッヒ音楽院で再びブロン氏に師事するなど、学びを深め続けました。

室内楽と音楽祭への参加

ソロ活動に加え、室内楽にも積極的に取り組んでいます。2008年にはチェリストの遠藤真理氏、ピアニストの三浦友理枝氏と共にピアノ三重奏団を結成し、好評を博しています。2013年からは霧島国際音楽祭に毎年参加しており、この音楽祭での経験は彼女にとってかけがえのないものとなっています。ポスターや先輩ヴァイオリニスト樫本大進氏からの話を聞いて参加を決めたというこの音楽祭では、オーケストラの一員として演奏する貴重な機会（特にワーグナーの「ワルキューレ」第1幕）を得て、その練習方法や楽譜の長大さに驚きつつも、他の奏者たちの集中力や精神力から多くの刺激を受けました。キリシマ祝祭管弦楽団で生まれる個性的で深みのある響きの中で演奏する感覚は、身体の芯から震えるような感動を与えたといいます。また、2015年にはエリソ・ヴィルサラーゼ氏とモーツァルトのピアノ四重奏曲を共演するなど、じっくりと音楽と向き合う時間を過ごせることを光栄に感じています。美しい自然、美味しい食事（かごしま黒豚など）、温泉といった環境も霧島滞在の大きな楽しみであり、長期間にわたり他の音楽家たちと寝食を共にすることで、音楽に関する深い話や普段話せないような話題で盛り上がるなど、人間的な交流からも多くの学びと楽しみを得ています。毎年夏に霧島で音楽を共にすることが、彼女にとって大きな魅力となっています。

使用楽器と録音

川久保氏は、そのキャリアにおいていくつかの名器を使用してきました。15歳から26歳まで1707年製のストラディバリウス「カテドラル」を、2009年頃には1757年製のカルロ・フェルディナンド・ランドルフィ作のヴァイオリンを、そして2020年以降は1726年製のストラディバリウス「エクス・クライスラー」を愛用しています。これまでに、下野竜也氏指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団との協奏曲集（チャイコフスキー＆メンデルスゾーン）、ソロリサイタル、トリオによる「RAVEL」、紀尾井シンフォニエッタ東京との「ヴィヴァルディ：四季」など、多数のアルバムをリリースしています。

私生活では、2016年にバンドネオン奏者の三浦一馬氏と結婚しました。アメリカでの幼少期、ドイツでの研鑽、数々の受賞歴、そして幅広い演奏活動を通じて、川久保賜紀氏はその豊かな音楽性と表現力で世界中の聴衆を魅了し続けています。今後のさらなる活躍が期待されるヴァイオリニストです。

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