従士

従士（Thegn）とは：アングロサクソン社会における階級と役割

従士（じゅうし、古英語: Thegn）は、アングロサクソン時代の社会における重要な階級の一つです。「セイン」という言葉は、古英語で「使用人」を意味し、高位の人物、特に王や有力な貴族に仕える成員を指しました。フランク王国におけるルードに相当するとも言われています。

従士の歴史的背景

アングロサクソン時代の後期には、従士は土地所有者としての側面も持つようになります。彼らはボークランド（臣下の土地、認可による継承）とフォークランド（王の土地、慣習法による相続）という二種類の土地を所有することができました。これらの領地は、単一の郡に集中している場合もあれば、複数の郡に散在している場合もありました。

領地内において、従士は領民に対して領主としての役割を果たし、一種の支配者として振る舞いました。しかし、彼らは同時に、主君（王やエアルドルマン）に対して軍事・行政両面での義務を負っていました。この義務関係は、個人的な繋がりに基づいており、従士の社会的地位は、仕える主君の階級によって決定されるという特徴がありました。

王権との繋がり

従士を地方に固定することは、王権を地方レベルで及ぼす上で不可欠であり、権力連鎖における重要な繋がりとして位置づけられました。一部の従士は、宮廷内での特定の地位を示す称号（discthegn：執事長、hræglthegnまたはburthegn：侍従長、byrele：酌人など）を持っていました。また、リーヴやエアルドルマンの称号を名乗る特権を持つ者もいましたが、これらの称号は王への忠誠によって保証されるものではなく、政治情勢や個々の利益によって変動する可能性がありました。

階級の変容

従士の階級は、時代とともに変化していきました。7世紀末にケント王国とウェセックス王国で発行された法典では、ケントにおいてeorlcundmanと呼ばれる中間階級と、最下層の自由民であるチャールが区別されていました。アルフレッド大王の時代以降、ウェセックス王、そして後のイギリス王の立法において、従士の役割はより明確に定義されるようになりました。

ノルマン・コンクエスト後の影響

ノルマン・コンクエスト後、王の従士は重要な存在として、男爵やその他の騎士といった新たな支配階級に同化されていきました。「セイン」という言葉は、近代英語ではthaneという形に変化し、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『マクベス』などにも登場します。

従士は、アングロサクソン社会における社会構造、土地所有、そして王権との関係を理解する上で、非常に重要な存在であったと言えるでしょう。

参考資料

Frederic Seebohm (2020-08-14). Tribal Custom in Anglo-Saxon Law. BoD – Books on Demand. ISBN 978-3752432459
チャールズ・マッケイ 著、塩野未佳、宮口尚子 訳『狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか』パンローリング、2004年6月25日。ISBN 978-4775970379。
* 田巻敦子、池上忠弘「アングロ・サクソン時代の教会区制度と教区司祭」『成城文藝』第160巻、成城大学文芸学部、1997年10月、29-47頁。

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