摂津丸

摂津丸の歴史

摂津丸（せっつまる）は、1945年に日本陸軍が大阪商船名義で竣工させた揚陸艦です。この艦船は陸軍特種船と呼ばれ、上陸用舟艇の母艦としての機能を持っていました。太平洋戦争の終焉が近づく中で、摂津丸は日本近海での輸送任務に従事しましたが、終戦時には機雷による損傷を受けて航行不能の状態となりました。戦後は復員船として使用された後、日本水産（現在のニッスイ）によって漁業工船へと改装され、捕鯨やマグロ漁に利用されました。しかし、1953年に南極海での操業中に沈没し、その活動に終止符を打ちました。

陸軍特種船の開発背景

日本陸軍は1934年に建造した「神州丸」の成功を踏まえ、同様の陸軍特種船を量産する計画を立てました。しかし、平時から大型船を多数保持することは困難であったため、民間船会社に補助金を交付し、民間船として建造し、有事には徴用するという方法を選択しました。特に、太平洋戦争が勃発した後も陸軍特種船の整備は続けられ、計画の中で民間船として4隻のM型船が造られました。

摂津丸はそのM型船の2番船として大阪商船によって発注され、日立造船因島工場で建造が進められました。1944年5月に起工し、1945年1月に竣工しました。名前には「津」が含まれており、これは上陸戦を意味しています。

この船はM甲型に分類され、外見は一般的な貨客船に似せられ、軍艦らしさを隠す工夫がされていましたが、内部には舟艇格納庫が設置されています。艦船の構造は商船とは異なるもので、戦時標準船に準じた簡素化が施されるなど、特異な設計がされています。姉妹船の「日向丸」とは煙突の数が異なり、摂津丸は左右並列の2本煙突を持っていましたが、後に1本煙突に改装されています。

戦局における活動

摂津丸はその竣工が遅かったため、上陸戦に投入される機会はありませんでしたが、わずかに日本近海で輸送活動を行いました。1945年2月には「日向丸」とともにタモ41船団を組織し、護衛艦の伴走で基隆港から六連島まで航行しました。しかし、同年3月28日に機雷と接触し、航行の障害となりました。アメリカ軍による機雷投下が始まった直後の出来事で、この事件が戦局の悪化を象徴するものでした。

復員船から漁業工船へ

終戦を迎えた後、摂津丸は一時修理を受け、復員兵や引揚者の輸送に役立てられました。ビルマや台湾、葫芦島に残る日本人の送還に従事しました。1947年には日本水産によって漁業工船として利用されることが決定しました。

日本水産は捕鯨業を行うため、摂津丸を捕鯨母船としての役割を持つ船団の一員としました。最初は塩蔵工船に改装が施され、次いで冷凍工船への改装が行われました。これにより、捕鯨活動はより効率的に行われることになりました。1950年代には、捕鯨やマグロ漁に従事し、摂津丸は南極海の捕鯨船団に欠かせない存在となりました。

沈没事故

しかし、1953年には運命が変わります。同年3月7日、南極海での捕鯨操業中に緊急用排水ポンプの点検作業中に発生した事故で、浸水が始まりました。船員の誤操作によってキングストン弁を開いてしまい、大量の水が船内に流入しました。船は遅延や障害を乗り越えたものの、最終的には沈没してしまいました。305人以上の乗員が無事に逃げ出しましたが、船とともに鯨肉3,800トンが失われ、その事態は大きな衝撃を与えました。日本水産はこの事故を受け、代船として新たな冷凍工船「宮島丸」を新たに建造し、捕鯨活動を続けることになりました。

まとめ

摂津丸の歴史は戦争の影と平和の中での変遷を辿るものです。その設計と運用の背景には、戦争の影響が色濃く残っており、陸軍特種船としての役割を果たした後も、戦後は漁業に従事し続けました。南極海での沈没事故は、その運命を終わらせるものでしたが、彼女の存在は当時の日本の海に刻まれた重要な記憶として語り継がれています。

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