暗黒の世界

『暗黒の世界』（Starless And Bible Black）

1974年に発表されたキング・クリムゾンの通算6作目にあたるスタジオ・アルバムです。この作品は、同時期のスタジオ録音曲と、1973年に敢行された精力的なツアーからのライブ音源が組み合わされている点が大きな特徴となっています。変則的な構成ながら、当時のバンドの緊迫感あふれる演奏を伝える重要な作品として知られ、イギリスでは28位、アメリカでは64位を記録しました。

制作背景とメンバー編成

キング・クリムゾンは、中心人物であるロバート・フリップ（ギター、メロトロン）を除くメンバーを一新し、1972年10月からライブ活動を再開しました。その後、1973年1月1日には前作『太陽と戦慄』の制作に着手しますが、アルバム発表直前の同年2月に行われたコンサートをもって、パーカッションを担当していたジェイミー・ミューアが脱退。これにより、バンドはフリップに加え、ジョン・ウェットン（ベース、ヴォーカル）、デヴィッド・クロス（ヴァイオリン、ヴィオラ、メロトロン）、ビル・ブルーフォード（ドラムス、パーカッション）という、4人編成となりました。本作は、この4人体制で制作されています。

圧倒的なライブ活動を経て

1973年3月に『太陽と戦慄』を発表した彼らは、同月中旬から休む間もなくツアーを開始します。特に同年は非常に多忙で、約3ヶ月に及ぶアメリカ・ツアーでは約60回もの公演を実施。短い休暇を挟んだ後もツアーを再開し、年末までにアメリカで19回、ヨーロッパで24回のコンサートを行いました。これらのステージでは、『太陽と戦慄』からの楽曲演奏に加え、即興演奏が重要な要素となり、バンドのサウンドはさらに研ぎ澄まされていきました。9月からは、ツアーの合間に書かれた新曲「人々の嘆き」「夜を支配した人々」「突破口」といった楽曲もセットリストに加えられています。

アルバム制作と独特の手法

『暗黒の世界』の制作は、1974年1月7日にロンドンのAIRスタジオで始まりました。ここでスタジオ録音されたのは、「偉大なる詐欺師」と「人々の嘆き」などごく一部の楽曲です。他の多くの収録曲は、前年に行われたライブツアーから選りすぐられた音源を基にしています。

例えば、スコットランド・グラスゴー公演（1973年10月23日）から「隠し事」が、スイス・チューリッヒ公演（同年11月15日）から「詭弁家」の演奏部分（ヴォーカルを除く）が、そしてオランダ・アムステルダム公演（同年11月23日）からは「夜を支配する人」の導入部、「トリオ」「暗黒の世界」「突破口」といった長尺の楽曲が採用されました。これらのライブ音源に対して、「詭弁家」のヴォーカルや「夜を支配する人」の後半部分など、スタジオで追加の録音が行われています。このスタジオ録音とライブ音源を組み合わせる手法は、当時のキング・クリムゾンの音楽的探求の一端を示すものです。

収録曲にまつわるエピソード

アルバムには個性的な楽曲が収録されています。

トリオ：この楽曲はタイトル通り3人での演奏ですが、作曲クレジットは演奏に参加していないビル・ブルーフォードを含むメンバー全員の共同名義となっています。ブルーフォードは演奏中、スティックを胸の前で十字にかざし、不参加の意志を静かに示したという逸話が残されています。
暗黒の世界 (Starless And Bible Black)：アルバムの原題であり、収録曲のタイトルにもなっているこの言葉は、ウェットンらが詩人ディラン・トマスのラジオ劇から引用したものです。実は、ウェットンはこのタイトルで楽曲を書いていましたが、本作には採用されず、ライブでの即興演奏を基にしたインストゥルメンタル曲にタイトルのみが転用されました。ウェットンが書いた元の楽曲は、歌詞がリチャード・パーマー・ジェイムズによって書き換えられ、次作『レッド』に「スターレス」として収録されることになります。タイトルを最初に提案したのはブルーフォードですが、ウェットンが特に気に入って執着したと伝えられています。

『暗黒の世界』は、ライブ活動によって磨き上げられたバンドの即興性とアンサンブルの力強さを捉えつつ、スタジオワークも融合させた、この時期のキング・クリムゾンを象徴するアルバムと言えるでしょう。変則的な構成ながらも、バンドの創造性と演奏力の高さを存分に感じさせる作品となっています。

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