椿葉記

椿葉記（ちんようき）について

椿葉記は、室町時代に伏見宮貞成親王（後の崇光院）によって執筆された歴史的文献で、全1巻から成ります。この書物は南北朝時代の北朝と室町時代における皇室の歴史を扱った重要な資料であり、特に崇光天皇流の衰退と再興に焦点を当てています。

概要

この書は、正平一統により崇光天皇が廃位された後から、後花園天皇の即位に至るまでの出来事を描写しています。当時、崇光天皇の子孫はその血統の正統性を失い、後光厳天皇の系統が嫡流として扱われるようになりました。崇光上皇は、自身の死亡時に悲しみの中で亡くなりましたが、その後に名門の系統が再興される道筋が見えてきました。

具体的には、正長元年（1428年）に称光天皇が急逝したため、後小松上皇は崇光上皇の曾孫である伏見宮貞成親王の子、彦仁王を迎え入れることで即位させました。このようにして、崇光天皇流は再び皇位を継承することが可能となったのです。

著作の背景と経緯

ただし、後小松上皇と伏見宮貞成親王の間には、皇位継承に対する考え方の違いがありました。上皇は新天皇を自身の子のように育て、後光厳天皇流の後継者としての立場を強化しようとした一方で、親王は新天皇を崇光天皇の曾孫として名乗ることに重点を置き、崇光天皇流の再興を訴えました。こうした背景から、両者の関係は複雑になり、やがて親王は「椿葉記」として新たな書を編纂することになりました。

この書は、永享3年から4年にかけて初稿が作成され、後に増補されて完成します。特に、永享6年（1434年）、後花園天皇に提出された際には親王の願いが叶い、太上天皇の尊号が宣下されることとなりました。

書の内容

椿葉記は、流麗で雅な仮名交和文体で書かれており、全体は主に三つの柱から成り立っています。1つ目は崇光天皇流の歴史と意義に関する部分、2つ目は貞成親王自身が太上天皇の尊号を受ける希望、そして3つ目は後花園天皇による君徳涵養に関する提言です。このような構成は、単に歴史を書くのではなく、戦国時代の皇室に求められる道筋を示そうとするものでした。

特に、後花園天皇がどのように将来の天皇に相応しい人物に成長するかについては、必要な学問や芸術、政務の知識を身につける大切さが述べられています。また、兄弟が仲良く共に成長することや、古くから天皇に仕えてきた人々への配慮についても記されています。

椿葉の意味

貞成親王は当初、新たな皇統の正統性を示すために「正統廃興記」という題名を選んだものの、後に控えめな印象の「椿葉記」という名称に変更しました。このタイトルは、詩の中の「椿葉の影再び改まる」という表現に由来しており、久しい時を経て再興する皇統への願いが込められています。このことから、椿葉記は単なる歴史書ではなく、さらなる皇室の未来への希望が反映されたものとも言えるでしょう。

諸本とその変遷

椿葉記には、草稿や補訂版が複数存在します。これらは、後小松法皇との間で緊張関係が生じた背景や、皇室内の意向を反映させたものと考えられています。現在も残存する諸本は、それぞれの時代や流派における異同が見られ、研究者にとって重要な資料になっています。

まとめ

椿葉記は、崇光天皇流の歴史的な背景と、そこから生まれた再興の願いを体現した重要な歴史書です。貞成親王の視点を通じて、室町時代の皇室の複雑な状況や、天皇としての資格に関する考え方が窺えます。これにより、後花園天皇が正当な歴史を引き継ぐ存在であることを文書として残すことに寄与しました。

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