水素燃料エンジン

水素燃料エンジン（HICE）について

水素燃料エンジンとは、水素を燃料として使用する内燃機関を指します。このエンジンは特徴的な点がいくつかありますが、まず第一に、燃料である水素は炭素を含まないため、燃焼時に二酸化炭素を発生させません。環境への負担が軽減されることが大きな魅力です。ただし、エンジンオイルの燃焼によってはごくわずかに二酸化炭素が排出されるため、全くのゼロではありません。

また、水素を燃焼させる際に大気中の窒素も関与するため、燃焼時に窒素酸化物（NOx）が発生しますが、これも通常のガソリンエンジンに比べれば少ない量です。さらに、水素燃料エンジンでは、過酸化水素類という従来の燃料では発生しない成分も生成されるため、これに対処する必要があります。

水素の特性として、大気圧下での体積あたりのエネルギー発生量は、軽油やガソリンに比べて劣るため、燃料としての水素を扱う場合は圧縮したり水素吸蔵合金に蓄えたりする技術が求められます。しかし、これらの技術は現在のところ十分な耐久性や安全性が確保されていません。また、水素供給のためのインフラもまだ発展途上の段階にあり、特に水素スタンドなどの実用化が必要です。

公道走行用の水素燃料エンジン車両の事例として、BMWが2006年にリリースした『ハイドロジェン7』があります。このモデルは通常のガソリンエンジンを改良し、出力は約半分、航続距離は200キロメートル程度でした。日本では1970年代から武蔵工業大学の古濱庄一教授が水素エンジンの研究を行っており、マツダもロータリーエンジンを用いた水素燃料エンジンの研究を進めてきました。

トヨタ自動車も水素燃料のレシプロエンジンを利用した車両の量産を視野に入れています。2021年には、既存のカローラスポーツを改造し、水素燃料専用のエンジンを搭載したレーシングカーがスーパー耐久レースに出場し、完走に成功しました。このレーシングカーは、さらに改良が加えられながら2023シーズンにも参戦が続いています。

また、ヤマハ発動機もトヨタからの依頼で水素燃料エンジンを試作し、テストを行ったことがあります。粘度の低い水素の特性を最大限に活かしたエンジンの開発が進められています。

水素燃料エンジンは宇宙機にも利用されています。特にアメリカのユナイテッド・ローンチ・アライアンス（ULA）では、ロケットの推進剤として水素を使用しています。この技術はロケットのタンクの加圧や発電にも活用される予定となっています。例えば、先進的な極低温上段ロケットであるヴァルカンには、統合型流体技術が搭載され、軌道上での運用寿命を延ばすことが期待されています。

水素燃料エンジンは、環境負荷の軽減が求められる現代において、持続可能なエネルギー利用の一助として注目されており、その普及に向けた研究と開発が続けられています。今後の技術革新により、より実用的な形で私たちの生活に密接に関わることが期待されています。

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