琉球交響楽団

琉球交響楽団とは

琉球交響楽団は、2001年に沖縄県を拠点に誕生したオーケストラです。その設立には、NHK交響楽団で首席トランペット奏者を務め、後に沖縄県立芸術大学で教鞭をとった祖堅方正の強い思いがありました。祖堅は、沖縄で若手音楽家を育成する中で、彼らが卒業後に音楽活動を継続できる環境が県内に不足している現状を憂い、地元出身者が活躍できる土壌としてオーケストラを創設するという夢を抱いていました。

この祖堅の構想に、NHK交響楽団時代から親交のあった指揮者の大友直人が共感し、設立を積極的に後押ししました。県立芸術大学の卒業生を中心にオーディションが実施され、こうして琉球交響楽団が産声を上げたのです。記念すべき第1回演奏会は、大友直人のタクトのもと、当時のN響メンバーなども加わった大編成で行われました。

設立に先立ち、沖縄県出身で元仙台フィルハーモニー管弦楽団ホルン奏者の上原正弘ら8名の音楽家が設立準備委員会を組織しました。彼らは、定期演奏会に適切な指揮者を招聘すること、そして楽団が安定した給料制に移行するまでは、団員が琉球交響楽団以外の音楽活動を自由に兼業できることの二点を確認し、楽団設立へと駒を進めました。

指揮者の大友直人は、楽団設立当初からミュージックアドバイザーとして携わり、2016年からは音楽監督として楽団を牽引しています。

演奏活動

琉球交響楽団は、沖縄県内を中心に年間およそ80公演を実施しています。定期演奏会は年に2回開催されるほか、幅広い層に向けた多様なプログラムを提供しています。例えば、映画音楽をテーマにした親しみやすいコンサートや、未来を担う学生のための音楽鑑賞会、沖縄の民話絵本の読み聞かせと連動した演奏会、さらには吹奏楽との共演や、人気漫画『のだめカンタービレ』を題材にしたユニークな演奏会なども行っています。

公的な式典での演奏も数多く手がけています。世界各地に暮らす沖縄出身者が集う「世界のウチナーンチュ大会」では、フィナーレを飾るベートーヴェンの『交響曲第9番』を演奏しました。また、2002年の本土復帰30周年記念演奏会や、2005年に宜野湾市で開催された米州開発銀行年次総会の歓迎行事では、当時の皇太子殿下の前で沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」を披露しました。2015年の本土復帰記念式典では、2009年に委嘱した組曲『祝典序曲』（與儀亨作曲）を演奏しています。さらに、2017年の第3回沖縄国際音楽祭でも、市民合唱団と共にベートーヴェンの『第九』を演奏するなど、地域に根ざした活動を展開しています。

新型コロナウイルス禍中の2020年5月8日には、YouTubeチャンネルを開設し、オンラインでの情報発信や演奏披露にも取り組み始めました。

経営状況と課題

設立から19年が経過した2020年時点でも、琉球交響楽団は安定した財政基盤の確保に苦慮しており、オーケストラを常設化するには至っていません。実際の活動は、演奏会ごとにメンバーが集まる臨時編成という形が続いています。また、専用の練習場や、楽器・機材運搬用のトラックも所有しておらず、楽団員個人が自家用車（貨物車）を持ち寄って対応しているのが現状です。

指揮者の大友直人は、特に沖縄ではクラシック音楽事業への民間企業からの支援が根付きにくい環境にあるため、資金調達が極めて難しいと指摘しています。県への支援要請も行っているものの、必ずしも芳しい結果には繋がっていないと述べています。

かつて、内閣府沖縄振興局長が沖縄振興策の一環として楽団への支援を検討した時期もありました。しかし、その検討が具体化する前の2012年に沖縄振興予算全体が大きく見直され、個別の補助金が一括交付金としてまとめられました。その用途を決定する権限が県や市町村に移譲された結果、音楽分野に充てられたのはごくわずかであり、しかも公募制となったため、かつての支援の可能性は途絶えてしまいました。大友は、沖縄は伝統芸能が非常に盛んであり、県もその分野には高い理解を示す一方で、西洋クラシック音楽に対しては慎重な姿勢が見られるように感じると語っています。

設立当初、「金の心配はせず演奏に集中すればいい」と団員を励まし、資金繰りを含む運営全般を一人で担っていた創設者の祖堅方正が、2013年に73歳で逝去したことは、楽団にとって大きな転換点となりました。楽団員たちは自ら運営の厳しさに直面し、楽団代表の高宮城徹夫は「こんなに大変なのかと思った」とその時の心境を語っています。しかし、楽団員たちの地道な努力の結果、定期演奏会の集客率が向上するなど、明るい兆しも見え始めています。公演プログラムに掲載する細かな広告集めなども、楽団員全員で協力して行っているそうです。

団員の報酬体系は給料制ではなく、公演ごとの歩合制となっています。そのため、団員は全員が音楽教室の講師や大学の非常勤講師など、別の仕事を掛け持ちしながら音楽活動を続けています。

ディスコグラフィ

琉球交響楽団は、これまでにいくつかのアルバムを発表しています。沖縄音楽をオーケストラで表現した作品も多く、例えば『琉球交響楽団～オーケストラによる沖縄音楽集～』では、三線や島太鼓といった伝統楽器を使わずに、オーケストラの響きだけでクラシック調にアレンジした沖縄民謡を演奏しています。

特筆すべき作品として、『萩森英明 沖縄交響歳時記』があります。これは作曲家・萩森英明に委嘱した交響組曲で、島太鼓や三板といった沖縄の伝統楽器を取り入れつつ、沖縄の四季折々の風景や風物を音で描いた全6楽章からなります。各楽章は「新年」「春」「夏」「秋」「冬」を表し、終楽章には沖縄の踊りである「カチャーシー」が取り入れられています。楽曲の中には、琉球古典音楽の祝賀曲「かぎやで風」、エイサーの定番曲「唐船ドーイ」、長寿を祝う民謡「花ぬ風車」、わらべ歌「てぃんさぐぬ花」、「谷茶前」など、様々な沖縄の音楽的要素が散りばめられています。指揮者の大友直人は、この作品を「オーケストラの看板曲になる」と高く評価しています。

この作品の録音には750万円という費用が必要でしたが、資金不足により一度は録音が危ぶまれました。しかし、クラウドファンディングで資金を募った結果、368名もの支援者から目標額350万円を上回る資金が集まり、無事録音を完成させることができました。なお、大友は2019年にはブカレストでルーマニア国立管弦楽団とこの組曲の一部を初演しています。

『萩森英明 沖縄交響歳時記』の全曲演奏は、2020年4月3日に沖縄県浦添市のアイム・ユニバースてだこホールで行われました。続く2020年4月6日には東京公演も予定されており、大友は「数多のコンサートがひしめく東京で演奏するなら、我々ならではの個性を打ち出したコンサートにしたい」と意気込んでいました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、両公演とも延期となりました。

琉球交響楽団は、多くの困難を抱えながらも、故郷沖縄の音楽文化の発展と音楽家の活躍の場を提供するため、独自の道を切り拓き続けています。

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