白鳥大橋

北海道室蘭市の海上に架かる白鳥大橋は、国道37号の一部を成す自動車専用道路であり、利用は無料です。この橋は室蘭市陣屋町と絵鞆半島の祝津町を結び、室蘭港の別名である「白鳥湾」にちなんで名付けられました。

概要と特徴

白鳥大橋は全長1,380メートルの吊橋で、完成当時は東日本における最大の吊橋でした。総事業費は1,000億円を超え、建設には多大な費用と時間を要しました。交通量は一日あたり1万台を超え、地域の交通インフラとして重要な役割を担っています。その技術力や景観は高く評価されており、1998年度には土木学会田中賞や照明普及賞優秀施設賞を受賞。また、夜間には風力発電を利用したライトアップが行われ、2008年には日本夜景遺産・ライトアップ遺産にも選定されています。

構造と革新技術

白鳥大橋の構造は、スマートな外観を持つラーメン方式の主塔が特徴です。主塔を支える人工島には、発電所から発生する石炭灰スラリーを中詰材として有効活用しており、この取り組みはコスト削減と資源リサイクルの観点から評価され、1990年度に土木学会北海道支部・技術賞を受賞しています。さらに、この橋には国内では珍しい2基の側塔が設けられています。側塔がケーブルの荷重を分担することで、主塔やアンカレイジ（アンカーブロック）の規模を抑える設計が可能となりました。

補剛桁には飛行機の翼のようなフェアリングと呼ばれる部材が側面に付けられており、これにより強風時や桁に着雪した場合でも橋の安定性を保つための対策が施されています。また、国内で初めて積雪寒冷地に建設された長大吊橋として、着雪を除去する技術や、コンピュータ制御により橋の振動を抑えるハイブリッド・チューンドマスダンパー（動吸振器）といった、寒冷地ならではの課題に対応する先進技術が導入されています。

特殊な建設工法

白鳥大橋の建設は、積雪や低温といった厳しい自然条件下で行われました。特に以下の三つの工法は、その革新性から注目されました。

1. 地中連続壁併用逆巻剛体基礎工法（世界初）
主塔の基礎となる支持層が非常に深い位置にあることが判明したため、橋梁工事としては世界で初めてこの工法が採用されました。これは、地中に連続した壁体を構築しながら掘削を進める方法で、祝津側で海面下67メートル、陣屋側で海面下103メートルという、かつてない規模の基礎工事を可能にしました。

2. S字ワイヤラッピング工法（世界初）
積雪寒冷地でのケーブル架設において、水分の浸入を防ぐためには高い気密性が不可欠でした。そこで、世界で初めてS字形のワイヤーを用いたケーブル・ラッピング技術が開発・適用されました。直径47cmのメインケーブルは、直径5.2mmのピアノ線を束ねたストランドを多数集めて構成されています。

3. スイング架設工法・全ヒンジ工法（日本国内初）
冬季の強風が予想される中で工期短縮を図るため、補剛桁の架設にこの工法が導入されました。架設した桁ブロックを一時的に蝶番（ヒンジ）状態で連結しながら吊り上げ作業を進め、その後に本格的な連結を行うことで、効率的な作業を実現しました。これにより、全61ブロックの補剛桁が比較的短期間で架設されました。

建設に至る歴史

白鳥大橋の構想は、1955年に室蘭開発建設部の初代部長であった猪瀬寧夫氏が提唱した「室蘭港湾口架橋構想」に端を発します。その後、地域の関係者や団体が一体となって国への陳情運動を展開し、調査研究が進められました。当初はトンネル案も検討されましたが、最終的に橋梁として計画が進められます。昭和56年度に事業化が決定し、昭和58年度の技術調査委員会で吊橋方式が採用されました。

当初は有料道路としての事業が望ましいとされていましたが、室蘭市の産業構造の変化や人口減少に伴い、採算性の問題が浮上します。完成が近づくにつれ、運営主体となる予定だった日本道路公団が難色を示し、北海道も公社設立による運営は困難と判断しました。最終的には、地元選出の国会議員による働きかけもあり、1996年に北海道開発局長によって通行料の暫定無料化方針が表明されました。総事業費1,000億円規模の道路が無料で開通するのは全国でも異例の出来事であり、地域の発展を願う多くの人々の努力の結晶と言えます。

地域との関わり

開通後、白鳥大橋は地域のシンボルとして親しまれています。風力発電施設からの電力は、橋のライトアップやメインケーブルのイルミネーション、そして橋のたもとにある白鳥大橋記念館（道の駅みたら室蘭として登録）に供給されており、余剰電力は売電されています。風力発電によるエネルギー利用は1998年度に新エネルギー財団会長賞を受賞しました。

白鳥大橋は室蘭市内の様々な場所からその雄姿を眺めることができ、白鳥大橋展望台や祝津公園展望台など、複数の「ビューポイント」が設けられています。また、この橋は地域のイベントの舞台となったり、楽曲や映画作品にも登場するなど、文化的な側面からも地域に深く根ざしています。

白鳥大橋は、単なる交通インフラに留まらず、厳しい自然条件に挑んだ技術開発の成果、環境への配慮、そして地域の歴史と人々の情熱が込められた象徴的な存在と言えるでしょう。

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