神護寺

神護寺：歴史と文化が織りなす高雄の古刹

京都市右京区の高雄山の中腹に位置する神護寺は、高野山真言宗の寺院であり、紅葉の名所として広く知られています。愛宕山系の豊かな自然に抱かれた境内には、金堂、多宝塔、大師堂など、数々の歴史的建造物が静かに佇んでいます。清滝川に架かる高雄橋を渡り、参道を進むと、山間に現れる神護寺の荘厳な姿は訪れる者を圧倒します。

和気清麻呂と神護寺の創建

神護寺の歴史は、奈良時代末期から平安時代初期にかけて活躍した貴族、和気清麻呂に深く関わっています。清麻呂は、称徳天皇の信任が厚かった僧・道鏡の皇位継承問題に際し、八幡大菩薩の神意を確かめるため宇佐八幡宮へ派遣され、道鏡の皇位継承に反対する奏上を行いました。この事件に巻き込まれ流罪となった後、赦免された清麻呂は、宇佐八幡の神意に基づき、私寺として神願寺を建立したと伝えられています。神願寺の位置は諸説ありますが、いずれも確証に欠けています。

一方、神護寺のもう一つの前身寺院である高雄山寺は、現在の神護寺のある地に古くから存在した寺院です。清麻呂の墓所が境内にあることから、和気氏ゆかりの寺院であったことは間違いありません。清麻呂が神願寺を建立したのとほぼ同時期に創建されたと推測されています。伝承では、洛北の鷹峯にあった愛宕権現を愛宕山に移座した際に、他の山岳寺院と共に建立されたと伝えられています。高雄山寺は、最澄が法華経の講義を行い、空海が灌頂を行ったことでも知られています。

空海、最澄、そして神護寺

天長元年（824年）、神願寺と高雄山寺は寺地を交換し、「神護国祚真言寺」と改称されました。これは神願寺の土地に「汚穢」があったためとされていますが、空海と最澄の知名度が高まるにつれ、和気氏が高雄山寺を氏寺として再評価し、神願寺を差し替えたという見方もあります。「神護国祚真言寺」の名は、八幡神の加護によって国家の安泰を祈念する真言宗寺院であることを示しています。

空海が一時住したとされる高雄山寺は、その後も空海の弟子たちによって護持されましたが、平安時代末期には衰退しました。

文覚による再興と激動の時代

平安時代後期、武士出身の僧・文覚が神護寺の荒廃を嘆き、再興に乗り出しました。文覚は、後白河法皇に荘園の寄進を強要するなど積極的な活動を展開しましたが、その政治的活動ゆえに流罪を繰り返すことになります。それでも文覚は、源頼朝とも関係を持ち、神護寺の再建に尽力しました。文覚の死後も、神護寺は後高倉院の支援を受けて再興事業が進められ、明恵上人による伝法会なども行われました。しかし、この間も、神護寺の領地を巡る争いや権力闘争が絶えませんでした。

近世以降の神護寺

鎌倉時代末期には、後宇多天皇と後醍醐天皇の庇護を受けていましたが、天文年間（1532年～1555年）の兵火で全焼しました。その後、江戸時代初期に再建され、多くの堂宇や支院を擁する大寺院となりましたが、明治時代の廃仏毀釈によって多くの建物が破壊され、衰微しました。しかし、昭和初期には実業家・山口玄洞の寄進によって、金堂、多宝塔、龍王堂などが再建され、現在の神護寺の基礎が築かれました。

見どころ

神護寺には、数多くの国宝・重要文化財が所蔵されています。

国宝：木造薬師如来立像、木造五大虚空蔵菩薩坐像、紫綾金銀泥両界[[曼荼羅]]図（高雄曼荼羅）、絹本著色釈迦如来像、絹本著色伝源頼朝像・伝平重盛像・伝藤原光能像、梵鐘、灌頂歴名など
重要文化財：大師堂、多くの仏像、絵画、典籍など

これらの文化財は、平安時代初期の優れた仏教美術を代表する作品であり、神護寺の歴史と文化を物語っています。また、境内には、かわらけ投げ発祥の地として知られる地蔵院や、美しい庭園など、見どころが満載です。

アクセス

神護寺へは、京都市営バスまたはJRバスで「高雄」バス停下車後、徒歩約20分です。高雄は、神護寺の他に西明寺の槙尾、高山寺の栂尾と合わせて「三尾」と呼ばれ、秋の紅葉の名所としても知られています。神護寺は、歴史と自然、そして貴重な文化財が調和した、訪れる価値のある寺院です。

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