紀田順一郎

紀田順一郎：知の探求者、その軌跡

紀田順一郎（きだ じゅんいちろう、1935年4月16日 - ）は、日本の文芸・メディア評論家、翻訳家、小説家として多岐にわたる分野で活躍しました。本名を佐藤 俊（さとう たかし）といい、ペンネームの「紀田」はきだみのる、「順一郎」は谷崎潤一郎に由来します。

生い立ちと学問

神奈川県横浜市中区で生まれた紀田は、幼少期から本に親しむ環境に育ちました。横浜国立大学神奈川師範学校横浜中学校、慶應義塾高等学校を経て、慶應義塾大学経済学部を卒業。大学時代には推理小説同好会に参加し、草森紳一や川村尚敬らと交流を深めました。また、SRの会にも参加し、新刊推理小説評を連載するなど、早くから評論家としての才能を開花させました。

多彩な活動

大学卒業後は商社に勤務する傍ら、評論活動を展開。1964年に退社してからは、近代史を中心とする評論活動に専念しました。読書論、古書論、出版情報論、国語国字問題など、幅広いテーマに取り組み、数多くの著作を刊行。

書誌研究とメディア論

書誌研究をライフワークとし、『古書街を歩く』、『日記の虚実』、『二十世紀を騒がせた本』など、メディア論、近代史論に関する著作を多数発表。古書をテーマとした推理小説、幻想文学作品も著しました。

SFとの関わり

初期にはSFにも関心を寄せ、SF関係者を輩出した「SFマガジン同好会」を創設。同人誌「宇宙気流」を創刊しましたが、短期間でSFから離れました。

映画への情熱

映画マニアとしても知られ、1970年代には8ミリや16ミリの映画フィルムを多数コレクション。関連書を執筆し、コレクター団体「映画コレクター連盟」を組織しました。

大衆文学研究

1974年には、島崎博、権田萬治らと日本大衆文学会を創設し、機関紙「大衆文学論叢」を創刊。大衆文学の研究にも貢献しました。

辞典・事典編集者への敬意

『知の職人たち』では、塙保己一、吉田東伍、石井研堂、大槻文彦、斎藤秀三郎、日置昌一、新村出といった、辞典・事典編集者たちの業績を紹介しました。

幻想文学・怪奇小説の翻訳と創作

荒俣宏との共同作業で、怪奇幻想文学の叢書を多数企画・編集。国書刊行会から刊行された「世界幻想文学大系」は、その代表的な成果です。また、中島河太郎、東雅夫との共同監修による作品集も多数あります。

1982年には、古書の世界を舞台としたミステリー連作中編集『幻書辞典』で作家デビュー。21世紀までミステリー作品を発表し続けました。

デジタル技術への関心

早くからワープロ、パソコンを導入し、パソコンを利用したデータベース論も発表するなど、デジタル技術にも関心を示しました。1992年には、ジャストシステムの日本語入力システム「ATOK」の「ATOK監修委員会」の座長を務めました。

受賞と晩年

1993年に『少年小説大系』で巖谷小波文芸賞、1999年に横浜文学賞を受賞。2006年には神奈川文学振興会理事長および神奈川近代文学館館長に就任（2012年3月まで）。

2008年には『幻想と怪奇の時代』で日本推理作家協会賞（評論その他の部門）を受賞。同書を中心とする文学活動に対し、神奈川文化賞を受賞しました。

晩年は、若き日の回顧や蔵書に関する著作を刊行。2011年に岡山・吉備中央町の書庫・書斎を撤収し、2015年には蔵書の処分を行い、その経緯を2017年『蔵書一代』として刊行しました。

紀田順一郎の遺産

紀田順一郎は、書誌研究、メディア論、近代史、幻想文学、ミステリーなど、多岐にわたる分野で独自の足跡を残しました。その知的な探求心と幅広い知識は、多くの読者に影響を与え続けています。

もう一度検索