純正律
純正律（英語: Just intonation）は、音楽における音律の一つで、含まれる全ての音程の周波数比が簡単な整数比で表されるように決められています。これにより、和音を構成する音同士の倍音間のうなりを最小限に抑え、澄んだ、安定した響きを実現します。
この音律において、例えば長音階を構成する際には、基準となる音から純正な完全5度（周波数比3:2）や純正な長3度（周波数比5:4）といった音程を用いて各音を定めていきます。ハ長調を例にとると、ハ（C）の音を基準として、その長3度上のホ（E）、完全5度上のト（G）をまず決めます。さらにト（G）から長3度上のロ（B）、完全5度上のニ（D）を導出。またハ（C）の完全5度下のヘ（F）、ヘ（F）の長3度上のイ（A）を定めることで、ハ長調の全音階に必要な音が揃います。これらの音を1オクターブ内に並べると、その音程間隔には周波数比9:8（大全音）、10:9（小全音）、16:15（半音）の3種類が現れます。
純正律の大きな特徴であり長所は、その純正音程で構成された和音が、倍音間のうなりをほとんど生じず、非常に澄んで安定した響きを持つ点です。特に、純正律で構成された主和音や属和音、下属和音といった主要な三和音は、基音の周波数比が4:5:6という最も単純な整数比となり、理想的な協和が得られます。
一方で、純正律にはいくつかの実用上の短所があります。その一つは、特定の音の組み合わせにおいて、意図した純正音程から大きく外れてしまう場合があることです。例えば、ハ長調の純正律においてニ（D）とイ（A）の間隔は、本来の純正完全5度（3:2）よりもわずかに（周波数比81:80、これをシントニックコンマと呼びます）狭い40:27という比率になってしまいます。このような音程を含む和音は響きが悪くなり、音楽的な流れを損なう可能性があります。
この音程のずれは、音楽の転調や移調を極めて困難にします。純正律では、ある特定の調で純正な和音が得られても、そのまま別の調に移ると、多くの音程が純正から外れてしまい、美しい響きを維持することができないためです。
また、旋律を演奏する上でも課題があります。純正律の全音階には大全音（9:8）と小全音（10:9）という二つの異なる種類の全音が存在するため、音階を上り下りする際に音程間隔が均等に感じられず、演奏者によっては扱いにくさを感じることもあります。加えて、派生音（シャープやフラットが付いた音）を作る際には、例えば幹音から純正長3度上（シャープ）や下（フラット）といった方法が用いられますが、この結果、純正律には全音階的半音（16:15）、半音階的小半音（25:24）、半音階的大半音（135:128）、大リンマ（27:25）といった、なんと4種類もの半音が存在することになり、これもまた複雑さを増す要因となります。
短音階も同様に、純正な完全5度や短3度（周波数比6:5）を用いて構成されます。例えばイ短調を純正律で構築すると、その下属音であるニ（D）の音高は、ハ長調におけるニ（D）よりもわずかに低くなります（これもシントニックコンマ分の差）。したがって、純正律のハ長調音階をそのままイ短調の主音（A）に移しても、純正なイ短調の音階にはなりません。短調の音階を得るためには、一部の音を調整する必要があります。興味深いことに、純正律においては、ある長調の音階からその同主短調（例：ハ長調に対するハ短調）の音階を比較的容易に得られる場合があり、平行調（例：ハ長調に対するイ短調）よりも同主調の方がより密接な関係にあるとする見解も存在します。
現代の楽器、特に電子楽器の中には、純正律の響きを体験できるものがあります。日本のメーカー、ヤマハは学校での合奏・合唱指導用に、ロングトーン時の和音の響きを改善するため、純正律に近いチューニングが可能な電子キーボード『ハーモニーディレクター』や『ハーモニーキーボード』を開発・供給しています。これらの製品では、選択した調（長調または短調）の主要三和音を、平均律と純正律に近い響きで発音させることができます。ローランドの一部シンセサイザー製品（XPシリーズ、RSシリーズなど）でも、平均律をセント単位で補正することで、純正律に近いチューニング設定が行えるようになっています。また、ヤマハ、ローランド、カシオの多くの電子ピアノや電子オルガンにも、平均律だけでなく純正律を含む様々な古典調律を選択できる機能が搭載されている場合があります。
さらに遡ると、ヤマハが1951年から1982年まで製造販売していた第一世代のミュージックサイレンも、その吹鳴テンポが比較的ゆっくりで、屋外への響き、特に和音の協和を重視していたことから純正律を採用していました。メロディーではなく和音を美しく響かせるために、音が持続するように設計されていたのです。
このように、純正律は理論上は最も理想的な和音の響きをもたらす音律ですが、実際の音楽演奏、特に転調を含む複雑な楽曲や旋律を重視する音楽においては、その複雑さゆえに実用上の課題も多く抱えています。そのため、現代の多くの鍵盤楽器では、どの調でも均等な響きが得られる平均律が主流となっていますが、純正律の純粋な響きは、特定の楽器や用途において今もなお追求され、活用されています。
この音律において、例えば長音階を構成する際には、基準となる音から純正な完全5度（周波数比3:2）や純正な長3度（周波数比5:4）といった音程を用いて各音を定めていきます。ハ長調を例にとると、ハ（C）の音を基準として、その長3度上のホ（E）、完全5度上のト（G）をまず決めます。さらにト（G）から長3度上のロ（B）、完全5度上のニ（D）を導出。またハ（C）の完全5度下のヘ（F）、ヘ（F）の長3度上のイ（A）を定めることで、ハ長調の全音階に必要な音が揃います。これらの音を1オクターブ内に並べると、その音程間隔には周波数比9:8（大全音）、10:9（小全音）、16:15（半音）の3種類が現れます。
純正律の大きな特徴であり長所は、その純正音程で構成された和音が、倍音間のうなりをほとんど生じず、非常に澄んで安定した響きを持つ点です。特に、純正律で構成された主和音や属和音、下属和音といった主要な三和音は、基音の周波数比が4:5:6という最も単純な整数比となり、理想的な協和が得られます。
一方で、純正律にはいくつかの実用上の短所があります。その一つは、特定の音の組み合わせにおいて、意図した純正音程から大きく外れてしまう場合があることです。例えば、ハ長調の純正律においてニ（D）とイ（A）の間隔は、本来の純正完全5度（3:2）よりもわずかに（周波数比81:80、これをシントニックコンマと呼びます）狭い40:27という比率になってしまいます。このような音程を含む和音は響きが悪くなり、音楽的な流れを損なう可能性があります。
この音程のずれは、音楽の転調や移調を極めて困難にします。純正律では、ある特定の調で純正な和音が得られても、そのまま別の調に移ると、多くの音程が純正から外れてしまい、美しい響きを維持することができないためです。
また、旋律を演奏する上でも課題があります。純正律の全音階には大全音（9:8）と小全音（10:9）という二つの異なる種類の全音が存在するため、音階を上り下りする際に音程間隔が均等に感じられず、演奏者によっては扱いにくさを感じることもあります。加えて、派生音（シャープやフラットが付いた音）を作る際には、例えば幹音から純正長3度上（シャープ）や下（フラット）といった方法が用いられますが、この結果、純正律には全音階的半音（16:15）、半音階的小半音（25:24）、半音階的大半音（135:128）、大リンマ（27:25）といった、なんと4種類もの半音が存在することになり、これもまた複雑さを増す要因となります。
短音階も同様に、純正な完全5度や短3度（周波数比6:5）を用いて構成されます。例えばイ短調を純正律で構築すると、その下属音であるニ（D）の音高は、ハ長調におけるニ（D）よりもわずかに低くなります（これもシントニックコンマ分の差）。したがって、純正律のハ長調音階をそのままイ短調の主音（A）に移しても、純正なイ短調の音階にはなりません。短調の音階を得るためには、一部の音を調整する必要があります。興味深いことに、純正律においては、ある長調の音階からその同主短調（例：ハ長調に対するハ短調）の音階を比較的容易に得られる場合があり、平行調（例：ハ長調に対するイ短調）よりも同主調の方がより密接な関係にあるとする見解も存在します。
現代の楽器、特に電子楽器の中には、純正律の響きを体験できるものがあります。日本のメーカー、ヤマハは学校での合奏・合唱指導用に、ロングトーン時の和音の響きを改善するため、純正律に近いチューニングが可能な電子キーボード『ハーモニーディレクター』や『ハーモニーキーボード』を開発・供給しています。これらの製品では、選択した調（長調または短調）の主要三和音を、平均律と純正律に近い響きで発音させることができます。ローランドの一部シンセサイザー製品（XPシリーズ、RSシリーズなど）でも、平均律をセント単位で補正することで、純正律に近いチューニング設定が行えるようになっています。また、ヤマハ、ローランド、カシオの多くの電子ピアノや電子オルガンにも、平均律だけでなく純正律を含む様々な古典調律を選択できる機能が搭載されている場合があります。
さらに遡ると、ヤマハが1951年から1982年まで製造販売していた第一世代のミュージックサイレンも、その吹鳴テンポが比較的ゆっくりで、屋外への響き、特に和音の協和を重視していたことから純正律を採用していました。メロディーではなく和音を美しく響かせるために、音が持続するように設計されていたのです。
このように、純正律は理論上は最も理想的な和音の響きをもたらす音律ですが、実際の音楽演奏、特に転調を含む複雑な楽曲や旋律を重視する音楽においては、その複雑さゆえに実用上の課題も多く抱えています。そのため、現代の多くの鍵盤楽器では、どの調でも均等な響きが得られる平均律が主流となっていますが、純正律の純粋な響きは、特定の楽器や用途において今もなお追求され、活用されています。
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