范雎

范雎（はん しょ）

范雎（? - 紀元前255年?）は、中国戦国時代の秦に仕えた政治家であり、字は叔。昭襄王に遠交近攻策を進言し、秦の覇業を支えたことで知られています。封地として応城を与えられたため、応侯とも呼ばれました。

苦難の前歴

范雎は魏の出身で、貧困のため中大夫の須賈に仕えていました。須賈の供として斉へ赴いた際、その弁舌の才を斉の襄王に見込まれ、金品を贈られましたが、須賈はこれを疑い、范雎が魏の情報を漏洩したと考えました。

帰国後、范雎は魏の宰相である魏斉から激しい拷問を受け、死んだふりをして難を逃れました。その後、友人の助けを借りて「張禄」と名を偽り、秦へ亡命しました。

秦相としての活躍

秦では、王稽の推薦により昭襄王に謁見する機会を得ましたが、すぐに重用されることはありませんでした。当時の秦は、昭襄王の母である宣太后の弟、穣侯魏冄が権勢を振るっており、王室よりも大きな財を成していました。

范雎は昭襄王に手紙を送り、自らの意見を聞き入れるよう訴えました。謁見が叶うと、まず外事について説き、遠交近攻策を提唱しました。この策が採用されると、秦は魏を攻めて領土を奪い、韓に圧力をかけるなど、目覚ましい成果を上げました。

昭襄王の信任を得た范雎は、穣侯一派の排除を訴え、王権の強化に貢献しました。これにより、秦は国内をまとめ、着実に勢力を拡大していきました。

睚眦の恨み

権力を握った范雎は、かつて自身を辱めた須賈を呼び出し、過去の仕打ちを非難しました。しかし、須賈がかつて自分に施しをしてくれたことを思い出し、命を助けました。その代わり、魏王に魏斉の首を差し出すよう要求し、復讐を果たしました。

また、范雎は自分を推薦してくれた王稽を河東の長に、助けてくれた鄭安平を将軍に取り立てるなど、恩義に報いました。同時に、少しでも自分を蔑んだ者には報復を忘れず、その様は「睚眦の恨み」と称されました。

昭襄王は范雎のために魏斉を討ちましたが、魏斉は自殺し、その首が秦に送られました。

引退

范雎は白起を讒言により死に追いやり、鄭安平が趙に降伏、王稽が処刑されるなど、晩年は苦難が続きました。蔡沢の進言を受け入れ、范蠡に倣って引退を決意しました。引退後、范雎は商鞅のような悲劇的な末路を辿ることなく、生涯を終えました。

秦はその後も、范雎が築いた方針を基に、天下統一へと進んでいきました。

死についての異説

『史記』では范雎は天寿を全うしたとされていますが、睡虎地秦墓から出土した資料には、王稽に連座して処刑されたとする記述も存在します。

評価

北宋の蘇轍は、范雎の功績を批判的に評価し、秦にとって有益なことをもたらさなかったと評しました。しかし、范雎が秦の発展に大きく貢献したことは疑いようのない事実です。

伝記資料

司馬遷『史記』巻79「范雎蔡沢列伝」

関連項目

遠交近攻
昭襄王
魏冄
白起
高適

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