見栄を張る

『見栄を張る』（英題：Eriko, Pretended）は、2016年に製作された日本の劇場用映画。藤村明世監督にとって初の長編作品であり、女優・久保陽香が主演を務めた。特定の場において涙を流すことで故人を悼む気持ちを演出する「泣き屋」という職業を題材にしながら、現代社会に生きる人々が抱える漠然とした不安や、他者からの評価を気にするあまり体裁や見栄を繕ってしまう心理を深く掘り下げていく人間ドラマである。

製作背景

本作は、若手映画監督の発掘・育成を目的とする「シネアスト・オーガニゼーション大阪（CO2）」の助成企画として制作された3作品のうちの1本として企画された。CO2助成作品は第11回大阪アジアン映画祭（2016年）で上映され、特に本作の上映券は前売り段階で完売するほどの注目を集めた。

当初、CO2からの助成金60万円を含む350万円の予算で計画が進められたが、MotionGalleryでのクラウドファンディングによって追加で50万円の資金を調達し、製作費300万円、宣伝費100万円の計400万円の予算で製作が開始された。

主要な撮影は2015年 12月20日から和歌山県海南市や紀美野町などで行われた。藤村監督は、紀美野町の「山の中にぽつんと日本家屋がある」という情景が作品の世界観に合致していたと語っている。また、葬儀のシーンは有田市や有田川町の葬儀場を使用し、地元住民の協力を得てエキストラとして多数の参列者を募った。

撮影は2016年 1月3日に終了したが、想定以上のスタッフ・キャスト数や広範囲に及ぶロケーション移動に伴う交通費、そして4Kデジタルシネマでのポストプロダクション費用が予算を超過したため、追加費用として50万円を再びクラウドファンディングで調達することとなった。

完成後、予定通り2016年3月の大阪アジアン映画祭で披露され、その後、日本国内での本格的な劇場公開は2018年に実現した。2018年 3月24日に東京のユーロスペースと横浜シネマリンを皮切りに、名古屋、新潟、大阪、神戸、和歌山、広島など全国各地の劇場で順次公開された。2020年にはDVDソフトも市販されている。

ストーリー

主人公・吉岡絵梨子（28歳）は、女優として芸能事務所に所属し、かつてはCMにも出演した経験を持つが、近年はこれといった活躍もなく、惰性でオーディションを受け続ける日々を送り、フリーターのような不安定な生活を送っていた。ある日、長く疎遠になっていた姉・由紀子（享年34歳）の訃報が届き、絵梨子は故郷である和歌山県へと戻ることを余儀なくされる。

実家に戻った絵梨子を待っていたのは、親族からの冷たい視線だった。彼らは、東京での浮ついた生活や、故郷に顔を出さなかった絵梨子に対して批判的だった。姉が女手一つで育てていた甥の和馬（10歳）を引き取ろうと申し出る絵梨子だが、料理すらまともにできない彼女の様子を見た親族たちは、「女優業を続ける絵梨子に子供の世話は無理だ」と猛烈に反対する。

生活の手段として、絵梨子は姉がかつて働いていたという「泣き屋」の仕事を始めることを決意する。葬儀で参列者の涙を誘うという、絵梨子には当初その意義が理解できなかったこの仕事。しかし、死者と遺族との間に立ち、形式にとらわれず真の哀悼の気持ちを表現する「泣き屋」としての仕事を通じて、絵梨子は形式的な見栄に固執し、自堕落だった過去の自分と向き合い始める。他者からの評価を気にすることなく、自身の内面と向き合い、真に求める自己像へと歩みを進めていくのだった。

主なキャスト

吉岡絵梨子（演：久保陽香） - 主人公。28歳。女優。
吉岡和馬（演：岡田篤哉） - 10歳。絵梨子の甥。
佐久間花恵（演：似鳥美貴） - 52歳。泣き屋。
佐野翔（演：齋藤雅弘） - 25歳。お笑い芸人志望。絵梨子の彼氏。
吉岡由紀子（演：真弓） - 享年34歳。絵梨子の姉。和馬の母。
三濱竜太郎（演：時光陸） - 28歳。絵梨子の元彼。葬儀屋。
福ちゃん（演：月亭太遊） - 29歳。お笑い芸人志望。翔の相方。
金沢聖子（演：辰寿広美） - 55歳。絵梨子の叔母。
市川美希（演：小杉りみ） - 28歳。絵梨子の友人。同級生。
三島節子（演：小栁圭子 - 特別出演） - 90歳。絵梨子に泣き屋を依頼する。

評価・受賞

本作は、2016年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の長編コンペティション部門において、最高賞の一つであるSKIPシティアワードを受賞し、国内での高い評価を獲得した。また、海外でも注目され、2017年にはオランダで開催されたカメラジャパン・フェスティバルで上映されたほか、イタリアの「Working Title Film Festival」（2017年）ではスペシャルメンション（Special mentions）を受賞している。

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