野鉄砲

野鉄砲（のでっぽう）

野鉄砲とは、江戸時代の怪談集『絵本百物語』に登場する妖怪である。この妖怪は、見た目がタヌキ、リス、ムササビに似ており、主に北国の山間や森の隠れた場所に住んでいるとされている。特に夕暮れ時になると、人を襲い、血を吸うという恐ろしい特徴を持っている。彼らは人を襲うときに、その視界を奪う行動をとり、その手法が独特である。

野鉄砲の特性

『絵本百物語』では、野鉄砲が人の顔に覆いかぶさり、目を塞いで視界を奪うとの記述が存在する。また、挿絵に描かれた文章には、口からコウモリに似たものを吐き出し、それを人の顔に覆いかぶせる様子が描かれている。このような特徴から、野鉄砲に襲われないためには、懐に「巻耳」と呼ばれるものを入れておくと良いと言われている。巻耳があれば、視界を奪われずに済むという知恵が伝えられているのだ。

この妖怪は、実際には猯（まみ）という動物が老いて妖怪化したものであるとも言われている。猯は狸の異称であるが、江戸時代の百科事典『和漢三才図会』では、狸と猯は異なる動物とされていた。一方、野衾という妖怪はムササビやモモンガに関連しており、これらの動物もまた猯と呼ばれることがあった。妖怪研究の第一人者である多田克己は、野鉄砲の特徴がいくつかの種類の動物の混同から生まれたものであると提唱している。特に、彼によると野鉄砲は人を襲う際に自ら人にかぶさるのではなく、口からコウモリ状のものを放つという独自の地域伝承が形成される原因となったという。

ただし、多田克己は別の説も展開しており、野鉄砲は一反木綿と同じ種類の妖怪で、視界を奪った隙に人の持ち物、特に食料を奪い取ることに特化しているとも述べている。このように、野鉄砲に関する伝説は多岐にわたり、その存在は多くの解釈を生んできた。特に、視界を奪うという特異な行動や、血を吸うという恐ろしさは、現代でも人々に強い印象を与えている。

野鉄砲に関連する作品

この妖怪を題材にした作品の一つは、京極夏彦による小説『野鉄砲』であり、これは『続巷説百物語』に収録されている。このように、野鉄砲はただの伝説にとどまらず、文学や芸術に影響を及ぼし続けているといえる。

参考文献

• - 多田克己『幻想世界の住人たち』 IV（新紀元社、1990年出版）
• - 多田克己編『絵本百物語 桃山人夜話』（国書刊行会、1997年出版）

関連項目

• - 日本の妖怪一覧

このように、野鉄砲という妖怪は、その外見や行動から生まれたさまざまな伝説や解釈を持っている。妖怪研究の進展や文化的なバックグラウンドが、野鉄砲の理解を深めていく一助となっていることを示している。

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