面白半分

『面白半分』：時代を彩った異色雑誌の軌跡

『面白半分』は、1971年に佐藤嘉尚によって創刊された月刊誌です。初代編集長には作家の吉行淳之介が迎えられ、1972年1月号が創刊号として世に出ました。この雑誌の最大の特徴は、編集長が半年ごとに交代するというユニークな編集体制でした。

創刊の経緯

雑誌創刊のきっかけは、吉行淳之介が『朝日新聞』に掲載したエッセイで「『日本軽薄派』という雑誌を作ってみたい」と書いたことでした。これに触発された大光社の佐藤嘉尚が雑誌の出版を企画。宮武外骨の雑誌『面白半分』からタイトルを得て、吉行の協力を得て創刊に至りました。当初は大光社が関与していましたが、同社が閉鎖されたため、城南洋紙店の社長・青沼繁汎の援助を受け、株式会社面白半分を設立。「面白くてタメにならない雑誌」をコンセプトに掲げました。

創刊号は96ページ、150円で3万部が発行されました。

歴代編集長と誌面

吉行淳之介の後、野坂昭如、開高健、五木寛之、藤本義一、金子光晴、井上ひさし、遠藤周作、田辺聖子、筒井康隆、半村良、田村隆一などが編集長を歴任しました。

各編集長の個性と時代背景が反映された誌面は、常に話題に事欠きませんでした。以下に、各編集長時代の特徴的な企画や出来事をまとめます。

吉行淳之介：作家らに1時間ほど話してもらった内容をリライトした「随舌」という企画が人気を集めました。大岡昇平、金子光晴、岡本太郎、山藤章二、開高健らが「随舌」に寄稿しました。
野坂昭如：永井荷風作と言われる春本「四畳半襖の下張」を全文掲載し、わいせつ図書として摘発されるという事件が起きました（四畳半襖の下張事件）。この事件を巡り、雑誌は裁判特集臨増号を発行し、世論に訴えました。
開高健：対談「随時小酌」やコラム「トイレ探訪」「私の葬式」などを掲載。ただし、開高自身がベトナムへ取材旅行に出ていたため、実際にはあまり編集に関わることができなかったようです。
五木寛之：五木寛之「日本腰巻文学大賞」を開始。山口瞳『酒飲みの自己弁護』が第1回受賞作となりました。ソンコ・マージュ「ギター無宿世界放浪記」も人気を博しました。
藤本義一：各方面から集めた「没」原稿特集や、竹中労による美空ひばりの擁護論、大島渚の「縁起の悪い話」などが話題となりました。
金子光晴：「面白半分電話対談」では、北杜夫と佐藤愛子が対談しました。
井上ひさし：テレビに関する記事に力を入れ、特集「テレビ、人間、…」「テレビお偉方身元調査」などを掲載しました。
遠藤周作：「神父さんの好奇心座談会」や講談「四畳半年増の色張」、井上洋治神父とトルコ嬢の「激烈対談」など、独自の企画が展開されました。
田辺聖子：匿名座談会「男性作家読むべからず」では、佐藤愛子、中山あい子らが出席。高橋孟の「海軍めしたき物語」が連載され、後にベストセラーとなりました。筒井康隆の露悪的な日記「腹立半分日記」も連載されました。
筒井康隆：クレージーな持ち味が人気を集め、発行部数も増加。編集長を1年間務めました。山下洋輔「全冷中顛末記」、タモリ「ハナモゲラ語の思想」などが連載されました。
半村良：架空のお茶の家元「南千家流」を特集し、アン・ルイスらが入門しました。特集「皇居再利用計画」「次期元号は"早稲田"（法政でも可）に決定」なども掲載。
田村隆一：小詩集や西江雅之による紀行文などが掲載されました。

終焉

1980年、発行人の佐藤嘉尚が編集長となり、編集長交代制が廃止されましたが、同年7月5日に負債9200万円を抱えて倒産。9月号以降は休刊となりました。「四畳半襖の下張事件」の最高裁判決を受け、12月号を「臨終号」として刊行し、幕を閉じました。

『面白半分』は、その斬新な企画と豪華な執筆陣によって、1970年代のサブカルチャーを牽引した雑誌として、今も語り継がれています。

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