飛梅

飛梅（とびうめ）

福岡県太宰府市にある太宰府天満宮の境内に、ひときわ存在感を放つ梅の木、それが「飛梅」です。樹齢は千年を超えるとされ、白梅でありながらも、その生命力と伝説的な背景から、多くの人々を魅了し続けています。

概要

飛梅は、太宰府天満宮の本殿前に植えられた梅の中でも、最も早く花を咲かせると言われています。根元は3株に分かれており、その姿はまさに自然の造形美。かつては、菅原道真公が左遷された際に住んでいた場所の近くにあった榎社の境内にあったものが、太宰府天満宮の創建時に現在の場所に移されたと伝えられています。また、道真公を祀る各地の神社には、飛梅から株分けされた梅が残っているとされています。

飛梅伝説

飛梅の物語は、平安時代の貴族、菅原道真公の悲しい左遷から始まります。都での政争に敗れ、大宰府へと送られることになった道真公は、屋敷の庭で愛でていた梅、桜、松の木に別れを告げました。その際、特に心を寄せていた梅の木に、次のような歌を詠んだと伝えられています。

「東風（こち）吹かば にほひをこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな」

この歌に応えるかのように、梅の木は道真公を慕い、一夜にして京から大宰府まで飛んで行ったとされています。一方で、桜の木は、主人が遠くへ行ってしまう悲しみに耐えかねて枯れてしまったと言います。また、松の木も道真公を追おうとしましたが、途中で力尽き、現在の兵庫県神戸市に降り立ち、「飛松」と呼ばれるようになったとされています。

この飛梅伝説は、国宝の「北野天神縁起絵巻」にも描かれており、13世紀初頭には広く知られていたことが分かります。当初、怨霊や祟り神として恐れられた道真公の信仰は、時代とともに変遷し、学問の神としての側面が強まっていきました。特に、室町時代以降、禅僧たちによって梅を愛でる文化が広まったことが、この変化を後押ししたと考えられています。

能楽の世界では、梅は「紅梅殿」という神として擬人化され、道真公を慕って飛んで行った後、京都に残された桜の木が、道真公が梅にだけ歌を贈ったことを悲しんで枯れてしまったという物語が語られています。さらに、道真公が「つれない」と咎めた松が、梅の後を追って大宰府にやってきたという「老松」の伝説も存在します。

飛梅伝説の現実的な背景には、道真公に仕えた人物が苗木を植えた説や、道真公を慕う人物が旧邸から苗木を持ち出し献上した説などがあります。これらの説もまた、飛梅に対する人々のロマンを掻き立てます。

飛梅の伝説は、太宰府天満宮だけでなく、道明寺天満宮、宝楽寺、防府天満宮など、各地の天満宮や関連の地にも見られます。これは、道真公への深い敬愛と、梅の花に託された人々の思いが、時を超えて受け継がれてきたことを物語っています。

探訪

飛梅は、太宰府天満宮の境内、本殿の左側に位置しています。開花時期には多くの参拝客が訪れ、その美しい姿に見惚れます。伝説と歴史が息づく飛梅は、訪れる人々に特別な感動を与えます。

関連事項

飛梅は、文学や音楽、スポーツ、交通など、様々な分野にも影響を与えています。

大和田建樹： 『鉄道唱歌』で飛梅が歌われています。
さだまさし： 楽曲「飛梅」で太宰府の情景を描きました。
第45回国民体育大会： 「とびうめ国体」として開催されました。
修学旅行列車： 「とびうめ」という愛称が用いられました。
とびうめ信用組合: 福岡県を中心に展開する信用組合。
鳴花ヒメ・ミコト： 飛梅をモチーフにしたVOCALOID。

関連項目

紅梅殿
飛松
* 神木

飛梅は、単なる梅の木ではなく、歴史と伝説、そして人々の心を結ぶ特別な存在です。太宰府天満宮を訪れた際には、ぜひこの飛梅の物語に触れ、その美しさを感じてみてください。

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