食卓のない家

『食卓のない家』

円地文子の長編小説、そしてそれを原作として映画化された同名作品である。

小説

小説は、1979年から1980年にかけて新潮社から上下巻で刊行された。本作は、1970年代に日本社会を震撼させた過激派組織、特に連合赤軍による山岳ベース事件やあさま山荘事件、さらには日本赤軍による日本航空ハイジャック事件といった一連の事件を主な題材としている。これらの社会的事実を背景に、ある家族が直面する悲劇を描き出す。

あらすじ

物語の主人公は、ごく普通のサラリーマンである鬼童子信之。電機メーカーの研究員として働き、妻と3人の子どもたちと共に平穏な家庭を築いていた。長男の乙彦は学業優秀だったが、進学した大学で学生運動に深く傾倒していく。やがて過激派セクトのリーダーとなった乙彦は、八ヶ岳の山荘に立てこもり、人質をとるという重大な事件を引き起こし、警察に逮捕される。

乙彦の逮捕後、彼が所属していたセクトの内部で、驚くべきことに同志に対する凄惨な殺人が行われていた事実が明らかになる。この事件の波紋は大きく広がり、逮捕された当事者たちだけでなく、その家族である親たちにも激しい非難の矢が向けられた。親たちは社会から糾弾され、中には職を辞すことを余儀なくされたり、あまりの苦境に自ら命を絶つ者まで現れるといった悲劇が続発した。

しかし、主人公の信之は、こうした状況下にあっても独自の姿勢を貫く。「成人した我が子の行動に対する責任は親にはない」という冷徹とも取れる論理を盾に、逮捕された乙彦との面会を頑なに拒否し、世間への謝罪も一切行わないことを明確に表明する。この信之の態度は、さらに強烈な批判の対象となり、彼自身もまた社会からの孤立を深めていくことになる。

映画化

小説を原作とした映画は、MARUGENビルが製作し、1985年11月2日に松竹富士系で公開された。この作品は、日本映画界の巨匠である小林正樹監督にとって、劇映画としては残念ながら遺作となった。

主要なキャストは以下の通りである。

鬼童子信之：仲代達矢
鬼童子由美子：小川真由美
鬼童子乙彦：中井貴一
鬼童子珠江：中井貴恵
鬼童子修：竹本孝之
沢木香苗：真野あずさ
川辺弁護士：平幹二朗
中原喜和：岩下志麻
朝野みよ子：大竹しのぶ
沢木朗：隆大介
看守：浜田寅彦
右門青寿

スタッフには著名な顔ぶれが揃っている。

監督・脚本：小林正樹
制作：川本源司郎
原作：円地文子
プロデューサー：岸本吟一、大志万恭子
企画：佐藤正之、原正人
撮影：岡崎宏三
音楽：武満徹（第9回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞）
美術：戸田重昌
編集：小川信夫
録音：西崎秀雄
助監督：吉富友也
照明：下村一夫

現在の状況

映画『食卓のない家』は、現在、作品の版権や原盤の所在が曖昧であり、このため映像ソフト化はもとより、劇場での再上映も極めて難しい状況にあるとされている。さらに、製作にあたったMARUGENビルの川本源司郎氏の特異な意向により、封切り公開時を除き、その後の上映やビデオ化などが一切許されていないとも伝えられており、容易に鑑賞することが困難な作品となっている。社会の激動が引き裂いた家族の絆、そして責任とは何かを問うこの作品は、様々な事情により現在ほとんど「見られない映画」となっているのである。

もう一度検索