高橋殿

高橋殿（たかはしどの）-

高橋殿は、室町時代前期に活躍した女性で、室町幕府第3代将軍である足利義満の側室として特に知られています。彼女の実名は不明ですが、義満の生存中は「西御所」という称号で呼ばれ、義満の死後は京都北野の高橋邸に住んだことから「高橋殿」または「北野殿」と称されました。

経歴

高橋殿に関する記録は『吉田家日次記』に多く見られます。この中には、応永9年（1402年）の7月6日に彼女の邸宅で、角田近江次郎が何者かに殺害されたという事件が記されています。また、この近江次郎は高橋殿の親類であったことが明らかになっています。このことから、高橋殿は近江国の角田氏にルーツを持つと言われています。

更に、世阿弥による『申楽談儀』には、彼女が「東洞院の傾城」として登場します。傾城とは遊女の意味であり、彼女が高い身分の出自ではなかった可能性を示唆しています。美しさに加え、機転が利き、酒にも強い性格で、これらの特質が義満の寵愛を受ける要因となりました。義満の地方旅行にも頻繁に同行し、その結果として幕府内で大きな権力を持つに至ります。

例えば、東寺百合文書には、彼女とその家臣が東寺から備中国新見荘や播磨国垂水荘の代官の地位を奪ったことが記録されています。また、吉田兼敦は、義満が僧形で伊勢神宮へ参拝する行動を引き合いに出し、高橋殿の影響力を示唆しています。

生活と信仰

高橋殿は子供を持たなかったことが、義満の嫡男である足利義持との間で権力争いを避ける結果につながりました。このような関係性から、義持は彼女を相談役として重んじていました。また、応永28年（1421年）には、称光天皇の生母や義持の正室と共に熊野詣を行い、高橋殿自身も熊野を信仰し、しばしば詣でていたことが明らかになっています。高橋殿の信仰は非常に強く、彼女が熊野詣を企画した可能性も指摘されています。

さらに、次の年の1月には将軍家が開催した祝宴に高橋殿も出席し、義持夫妻と同席した記録があります。このことから、彼女が幕府内での重要な存在であったことが伺えます。

政治的影響

応永34年（1427年）には、高橋殿が関与したとされる重要な事件が発生します。義持の側近である赤松持貞が、義持の命により自害を命じられる出来事です。持貞は女性問題を抱えており、高橋殿の密書を通じてこの問題が発覚したとされています。これにより持貞は義持から容赦なく処断されることになりました。

その後、応永35年（正長元年/1428年）に義持が亡くなり、足利義教が将軍職を引き継ぎました。義教は高橋殿に深い敬意を表し、彼女の危篤を聞くとすぐに見舞いに訪れたとも伝えられています。高橋殿は義教の訪問後、同年内に亡くなったことが確認されていますが、具体的な日付は不明です。ただし、彼女の遺領が処理された事実が確認されており、彼女の死が年末より前であったことが示されています。

参考文献

高橋殿の人生を理解するために、松岡心平の『室町将軍と傾城高橋殿』（所収: 松岡心平 編『看聞日記と中世文化』）が役立ちます。本書では高橋殿の影響や彼女を取り巻く歴史的背景に光を当てています。

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