あかし (海洋観測艦・初代)

海上自衛隊海洋観測艦「あかし（AGS-5101）」

来歴

第二次世界大戦終結まで、海洋の測量・観測は主に大日本帝国海軍水路部が担っていました。戦後、その任務は運輸省の外局を経て、海上保安庁へと引き継がれます。そのため、その後に発足した海上自衛隊には、海洋における測量や観測を専門とする艦船が存在せず、従来の業務の中で水温観測を行う程度で、他の海洋に関する情報は気象庁などの外部機関からの提供に依存していました。

しかし、潜水艦の捜索・追尾方法が音響を主体とするパッシブ方式へと移行するにつれ、海上作戦を効果的に遂行するためには、より詳細な海洋環境データの把握が不可欠となりました。海底の形状や堆積物、海流、地磁気、そして水温や塩分といった水質、さらには海上気象など、多岐にわたる要素を相互に関連付けて精密に測定する必要が生じたのです。

海上自衛隊では、まず1961年から自動記録式海水温度記録装置（BT）を装備した艦船による航海中の定時BT観測を開始し、翌年にはその観測結果に基づいたBT通報が始まりました。その後も、護衛艦や駆潜艇による対潜戦のためのBT観測、掃海艇による水中固定機器設置のための海洋調査や掃海水路の調査が行われてきました。しかし、研究が進展し、必要な観測要素や観測深度が増加するにつれて、それに対応する専門的な装備を既存の護衛艦などに搭載することが困難になってきました。

一方、国全体としても1961年には海洋科学技術審議会を設置し、各官庁・機関の海洋観測体制の強化を図っていました。また、1969年には9か国が協力する黒潮共同調査が予定されていたこともあり、海上自衛隊に対しても観測専用艦の建造が関係各方面から期待されるようになりました。

このような背景から、海上自衛隊にとって初の海洋観測専用艦として計画、建造されたのが本艦「あかし」です。なお、旧日本海軍においては、最初で最後の専用測量艦として「筑紫」を保有していました。

設計

「あかし」の建造計画は、第3次防衛力整備計画において始まりました。当初は最小限の規模として基準排水量700トン、速力12ノット、乗員約58名が構想されていましたが、特に冬季の荒れた北太平洋での観測活動にはこの規模では不十分であることが判明し、最終的には基準排水量1,420トンの艦として設計が進められました。

船体は、艦首から船体中央にかけてブルワークを備えた長船首楼型を採用し、構造は商船構造が用いられています。また、喫水線付近は耐氷構造となっています。観測活動を主に右舷で行うため、右舷側の船首楼は短く設計されており、艦尾甲板と高さが揃えられた作業甲板が煙突の直下まで続いています。観測用の主要な機器は右舷中央部に配置され、一方、左舷には内火艇や作業艇が搭載されました。

定点での継続的な観測を可能にするため、艦尾には最大深度4,000メートルまでの投錨が可能な深海錨泊装置を搭載。さらに、艦首船底には精密な操艦を助けるアジマススラスター、船体には横揺れを抑えるためのアンチローリング・タンク（日本鋼管製）を備えています。観測機器の投入や揚収のために、艦尾の作業甲板に設置された2基のクレーン（吊り上げ能力5トンと1トン）をはじめ、様々な種類のダビットやウインチ類が装備されていました。

主機関には、川崎重工業が製造したMAN製V型6気筒ディーゼルエンジン「V6V22/30ATL」（単機出力1,600馬力）が搭載されました。このエンジンはMAN社が開発したVV22/30シリーズの流れを汲むもので、同系列機は昭和42年度以降に計画・建造された他の補助艦艇でも広く採用される一般的な機種となりました。任務の特性上、「あかし」は14ノットでの巡航時に約16,500海里（およそ3万キロメートル）という、当時の海上自衛隊の艦艇の中でも特に長い航続距離を有していました。

艦歴

「あかし」は、第3次防衛力整備計画に基づく昭和42年度計画艦として、艦番号5101を与えられました。日本鋼管鶴見造船所において1968年9月21日に起工、1969年5月30日に進水し、同年10月25日に就役しました。就役と同年の10月1日に新編されたばかりの海洋業務隊に編入されます。

1975年には電子戦装置が追加装備されました。1980年3月17日には、所属部隊である海洋業務隊が海洋業務群へと改編されます。

その後、約30年にわたり海洋観測任務に従事し、1999年3月24日に除籍されました。就役期間中の総航程は約68万海里に達し、実施した海洋観測任務は194回、日数にして合計3,011日に及びました。

登場作品

* 映画『日本沈没』
作中では、深海探査艇「ケルマディック号」の母艦として登場します。撮影には実際の「あかし」艦上が使用されました。

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