お富の方

お富の方（おとみのかた、または、おとみのかた）は、江戸時代中期、第10代将軍・徳川家治の治世に大奥に仕えた女性です。彼女は、御三卿の一つである一橋徳川家の当主、徳川治済の側室となり、第11代将軍となる徳川家斉を生みました。資料によっては「於登美（おとみ）」とも記されています。

生涯

お富の方の父は岩本正利とされ、母は大奥の御年寄である梅田の養女でした。岩本家は、元は紀州藩に仕えており、徳川吉宗が将軍になった際に幕臣となった家柄です。彼女は明和元年（1764年）に江戸城本丸の奥勤めとなりました。

安永元年（1772年）3月、徳川治済の求めに応じ、一橋邸に移り、中﨟という立場になりました。翌年の安永2年（1773年）10月5日、後の将軍となる豊千代（とよちよ、後の徳川家斉）を出産します。

豊千代は、天明元年（1781年）閏5月18日に、第10代将軍・徳川家治の養子となります。この養子縁組は、治済が、お富の方と親交の深かった田沼意次や、大奥の年寄・大崎などに働きかけた結果、大奥の支持を得て実現したと言われています。同年10月頃、豊千代とその婚約者である茂姫は、江戸城西ノ丸に入りました。

天明6年（1786年）に家治が亡くなると、翌年、家斉が第11代将軍に就任し、茂姫は御台所として西の丸から本丸に移り住みました。お富の方は、将軍の生母という立場になりましたが、主である治済が彼女よりも長生きしたため、茂姫と共に本丸大奥に入ることはなく、一橋邸で治済の側で過ごしました。

文化14年（1817年）5月8日、お富の方は亡くなりました。東叡山寛永寺の凌雲院に埋葬され、法号は慈徳院種善教成大姉（慈徳院殿）とされました。

死後

文政11年（1828年）2月1日、彼女の功績を称え、従二位が追贈されました。

子女

「一橋徳川家記」によると、お富の方の子は以下の通りです。

長男：徳川家斉（第11代将軍）
（異説あり）三男：黒田斉隆（『寛政重修諸家譜』では、母は丸山氏とされています。）
四男：徳川雄之助（早世）
六男：徳川斉敦

お富の方は、将軍の生母として、また、大奥における影響力のある女性として、江戸幕府の歴史に名を残しました。彼女の生涯は、単なる将軍の母というだけでなく、政治的な駆け引きや大奥の人間関係など、様々な要素が絡み合った複雑なものであったと言えるでしょう。彼女の存在は、徳川幕府の歴史を語る上で、重要な要素の一つです。彼女の生涯は、当時の社会情勢や大奥の状況を理解するための重要な手がかりとなります。

参考文献

堀田正敦等 編「巻第425」『寛政重修諸家譜』 第七（新訂）、続群書類従完成会、1965年1月30日。NDLJP:2985853。
「徳川幕府家譜」『徳川諸家系譜』 第一、続群書類従完成会、1970年7月30日。NDLJP:12211158。
「幕府祚胤伝」『徳川諸家系譜』 第二、続群書類従完成会、1974年8月30日。NDLJP:12211157。
『徳川諸家系譜』 第三、続群書類従完成会、1979年3月25日。NDLJP:12207381。

外部リンク

* デジタル版 日本人名大辞典+Plus『慈徳院』 - コトバンク

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