徳川治済

徳川治済：将軍の実父として幕政を動かした大物

徳川治済（とくがわ はるさだ）は、江戸時代後期に活躍した武士で、御三卿の一つである一橋家の第2代当主です。第8代将軍徳川吉宗の孫にあたり、第11代将軍徳川家斉の実父として、幕政に隠然たる影響力を持ちました。

生涯

宝暦元年（1751年）に徳川宗尹の四男として生まれた治済は、幼名を豊之助と名乗りました。兄たちがそれぞれ福井藩を継いだため、一橋家の世子となり、徳川姓を名乗るようになります。元服後、将軍徳川家治から偏諱を賜り、「治済」と名乗るようになりました。

明和元年（1764年）には従三位左近衛権中将に叙任され、同年、一橋家の家督を継承しました。その後、公仁親王の娘である在子女王を正室に迎えています。治済は、田沼意次が幕政を主導する中、その弟や甥を一橋家の家老に迎え入れるなど、田沼派との関係を深めました。しかし、その一方で、松平定信ら反田沼派の黒幕としても活動し、天明6年（1786年）に家斉が将軍に就任すると、田沼意次の罷免、田沼派の一掃を主導しました。

天明8年（1788年）には、家斉が治済を「大御所」待遇にしようとしましたが、朝廷での尊号一件が発生したため、実現しませんでした。この出来事は、松平定信の失脚につながりました。寛政3年（1791年）には権中納言に、寛政11年（1799年）には従二位権大納言に叙任され、同年、一橋家の家督を六男の斉敦に譲って隠居し、幕府から5万石の賄料と5千両の年金を受けることになりました。

文政元年（1818年）には剃髪して穆翁と号し、裘袋（きゅうたい）の着用を勅許されました。その後も、従一位、准大臣に叙せられ、文政10年（1827年）に77歳で亡くなりました。死後、内大臣、太政大臣を追贈されています。墓所は東叡山寛永寺です。

人物像と評価

治済は、将軍家斉の実父として、その権勢を背景に幕政に大きな影響力を行使しました。漢学者・五弓久文が著した『文恭公実録』によると、その豪奢な生活ぶりから「天下の楽に先んじて楽しむ」三翁の一人に数えられたとされています。一方で、「天下の憂に先んじて憂う」人物として松平定信が挙げられており、対照的な人物として描かれています。

家族

正室には在子女王を迎えましたが、早くに亡くなっています。側室との間に、第11代将軍となる家斉をはじめ、多くの子女をもうけました。

正室: 在子女王（公仁親王の娘）
側室: 岩本氏
長男: 徳川家斉（第11代将軍）
三男: 黒田斉隆（異説あり）
四男: 雄之助
六男: 斉敦
側室: 丸山氏
二男: 治国
五男: 斉匡
七男: 松平義居
側室: 中村氏
八男: 久之助
九男: 本之丞
側室: お花
三女: 輝姫
生母不明:
長女: 庸姫
次女: 満姫
四女: 紀姫

関連作品

治済を題材とした、またはその時代を舞台とした小説、テレビドラマ、漫画が多数存在します。

小説:
剣客商売（池波正太郎）
暗殺春秋（半村良）
十五万両の代償 十一代将軍家斉の生涯（佐藤雅美）
羽州ぼろ鳶組シリーズ（今村翔吾）
やさぐれ大納言徳川宗睦シリーズ（麻倉一矢）
闇の傀儡師（藤沢周平）
テレビドラマ:
闇の傀儡師（1982年、フジテレビ）
風光る剣 八嶽党秘聞（1997年、NHK正月時代劇）
幻十郎必殺剣（2008年、テレビ東京・東映）
剣客商売スペシャル・春の嵐（2008年、フジテレビ・松竹）
剣客商売スペシャル・御老中暗殺（2012年、フジテレビ・松竹）
大江戸捜査網2015〜隠密同心、悪を斬る!〜（2015年、テレビ東京新春ワイド時代劇）
大奥「第一部～最凶の女～」（2016年、フジテレビ）
大奥 season2（2023年、NHKドラマ10）
べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜（2025年、NHK大河ドラマ）
漫画:
風雲児たち（みなもと太郎）
* 大奥（よしながふみ）

治済は、将軍の実父として権勢を誇り、幕政に大きな影響を与えた一方で、その豪奢な生活ぶりから批判も受けました。しかし、その行動は、当時の政治情勢を理解する上で重要な手がかりとなります。

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