きりん座アルファ星

きりん座α星（アルファ・カメロパルダリス）

きりん座アルファ星（α Cam）は、地球から約5,200光年の距離にあるO型に分類される超巨星です。見かけの明るさは4.29等級で、きりん座を構成する星々の中では、ベータ星やCS星に続いて3番目に明るく観測されます。特筆すべきはその距離で、他の星座のアルファ星と比較して、最も遠方に位置することが知られています。

この星は、太陽の約32倍という非常に大きな質量を持つ大質量星です。表面温度は約29,000ケルビンと高温で、その輝きは太陽の実に68万倍にも達する驚異的な光度を誇ります。放出される光は複雑なパターンで変化しており、非動径振動と呼ばれる現象が光度の変動を引き起こしていると考えられています。この変動に伴い、星の表面付近で生成される吸収線スペクトルには、視線方向の速度変化による波長のずれが観測されています。光度変化の周期は明確には定まっていませんが、0.36日から2.93日の範囲で変動が起こると推測されています。

きりん座アルファ星からは、大量の物質が恒星風として宇宙空間に放出されています。この恒星風は断続的で、大小様々な塊状構造を含んでいることが観測されています。恒星風による質量放出率は非常に高く、この星は毎年太陽質量の5.1×10⁻⁶から6.5×10⁻⁶倍に相当する質量を失っていると見積もられています。

かつて、この星は連星系を成している可能性が指摘されていました。1978年には、周期46.8日の分光連星であるという報告があり、その後1986年の観測では、約3.68日の周期で離心率の大きな軌道を公転する伴星の存在が推定されました。しかし、2007年に発表された研究結果では、スペクトルに見られた変動は伴星の存在によるものではなく、星自身の外層大気や恒星風の変化に起因すると結論付けられ、現在は単独星である可能性が高いと考えられています。最新の高性能望遠鏡を用いた観測でも、伴星は検出されていません。

きりん座アルファ星の起源についても興味深い説が提唱されています。1961年に、この星が非常に大きな空間速度を持っていることが明らかになり、散開星団NGC 1502から弾き出された「逃走星」（ラナウェイ・スター）である可能性が指摘されました。この星と星団の運動パターンの一致や、銀河面から大きく離れた高銀緯に位置し、周辺に星形成領域が見られないことなどが、この説を裏付ける根拠とされています。

超音速で星間物質中を移動する逃走星は、前面の物質を圧縮し、巨大な衝撃波面（バウショック）を形成します。きりん座アルファ星においても、このバウショックの存在が確認されています。1988年には赤外線天文衛星IRASのデータからその兆候が見つかり、その後の紫外線や可視光での観測でも衝撃波形成の証拠が得られました。特に、WISE衛星によって撮影された画像は、この星が作り出す壮大なバウショックを鮮明に捉えており、その規模は長さ約15パーセク、幅約4.7パーセクにも及びます。

名称に関しては、ヨーロッパやアラビアにおける固有の名前は伝わっていません。中国の伝統的な星官においては、この星は紫微垣の一部である紫微右垣に属し、「紫微右垣六」と呼ばれています。また、紫微右垣の各星には「少衛」のような個別の名前が与えられていましたが、これらの名前は紫微左垣と共通するものが多く、紫微左垣においてはケフェウス座π星が少衛と呼ばれています。

もう一度検索