この世界に愛を

ローリング・ストーンズの隠れた名曲「この世界に愛を」：制作秘話から評価まで

1967年、ローリング・ストーンズによって発表された楽曲「この世界に愛を」(We Love You)は、彼らのアルバムには収録されなかったシングル曲でありながら、数々の興味深いエピソードを持つ、知る人ぞ知る名曲です。サイケデリックなサウンドと、意外なコラボレーション、そして評価の二極化など、この楽曲の深淵を紐解いていきましょう。

制作背景：薬物逮捕とファンへの感謝

「この世界に愛を」は、1967年5月から7月にかけてロンドンのオリンピック・スタジオで録音されました。当時、ストーンズはメンバーの薬物所持による逮捕と裁判という困難な時期を経験しており、音楽活動は停滞していました。そんな中、この曲は、彼らを支え続けたファンへの感謝のメッセージとして制作されたと伝えられています。

楽曲は、アルバム『サタニック・マジェスティーズ』のセッション中に録音されており、同アルバムを彷彿とさせるサイケデリックなテイストを受け継ぎながらも、重苦しく不気味なサウンドが特徴です。特に印象的なのは、ニッキー・ホプキンスが演奏したピアノのリフ。ホプキンス自身は作曲を主張していますが、クレジットには記載されていません。さらに、曲の導入部では、刑務所で録音された鉄格子の閉まる音や看守の足音が使用されているという、異色のエピソードも持ち合わせています。

意外なコラボ：ビートルズとの秘匿された共演

この曲のコーラスには、なんとジョン・レノンとポール・マッカートニーが参加しています。これは、ストーンズがビートルズのシングル「愛こそはすべて」にコーラス参加したことに対する返礼という説が有力です。しかし、この参加はリリース当時は公表されませんでした。ビートルズが所属するEMIとの契約違反となる可能性があったためです。ストーンズは公式には認めず、「噂」として流布することにより、この事実を世間に知らしめたのです。

ミュージックビデオ：BBCで却下された異色の映像

「この世界に愛を」は、ミュージックビデオも制作されました。監督はピーター・ホワイトヘッドで、エセックスの教会を舞台に、オスカー・ワイルドの公判をモチーフにした内容となっています。ミック・ジャガーがワイルド、当時の恋人マリアンヌ・フェイスフルがワイルドの友人「ボージー」、キース・リチャーズがボージーの父親であるクイーンズベリー公爵を演じました。しかし、この映像はBBCの音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」で放送を却下されています。「視聴者層にそぐわない」という理由でした。アメリカやドイツでは放送されましたが、ストーンズのコンサートでこの曲が披露されたことはありません。

リリースと評価：アメリカとイギリスで大きく異なる評価

「この世界に愛を」は、「ダンデライオン」をB面に収録し、1967年8月18日にイギリス、9月2日にアメリカでシングルとしてリリースされました。イギリスではトップ10入りを果たしましたが、アメリカでは50位と振るわず、B面の「ダンデライオン」の方が高い順位を記録しました。

批評家の評価も国によって大きく異なりました。イギリスでは肯定的な評価が多い一方、アメリカでは厳しい評価が目立ちました。ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌は肯定的なレビューを発表した一方、トロント・デイリー・スター紙は酷評を下しています。ジミ・ヘンドリックスも、この曲を複雑で、最後の部分以外には感心しなかったとコメントしています。

バージョン違いと収録アルバム

シングルバージョン（モノラルミックス）には、エンディングに「ダンデライオン」の一部、そして「ダンデライオン」のエンディングに「この世界に愛を」のイントロが挿入されているという特徴があります。これはステレオミックスバージョンにはありません。また、近年のマスターでは、エンディングに言葉がかぶさっている場合もあるようです。ステレオバージョンは1969年のベストアルバム『スルー・ザ・パスト・ダークリー (ビッグ・ヒッツ Vol.2)』の英国盤で初登場し、コンピレーションアルバムでは主にステレオバージョンで収録されています。オリジナルのシングルバージョンは『シングル・コレクション (ザ・ロンドン・イヤーズ)』に収録されています。

レコーディングメンバーとカバー

この楽曲のレコーディングメンバーは、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズ、ビル・ワイマン、チャーリー・ワッツ、ニッキー・ホプキンス、ジョン・レノン、ポール・マッカートニーです。また、「この世界に愛を」は、コック・スパラー、坂本龍一、グレゴリアンなど、多くのアーティストによってカバーされています。

まとめ

「この世界に愛を」は、商業的な成功とは裏腹に、多くの音楽ファンを惹きつけてやまない魅力を持つ楽曲です。サイケデリックなサウンド、刑務所での録音という異色のエピソード、ビートルズとの意外なコラボ、そして評価の二極化など、様々な要素が複雑に絡み合い、この曲の奥深さを際立たせています。ローリング・ストーンズの楽曲の中でも、ひときわ異彩を放つ存在と言えるでしょう。

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