スルー・ザ・パスト・ダークリー (ビッグ・ヒッツ Vol.2)

ローリング・ストーンズの2枚目の公式コンピレーション・アルバム『スルー・ザ・パスト・ダークリー（ビッグ・ヒッツ Vol.2）』は、1969年というバンドにとって転換期を象徴する年にリリースされました。このアルバムは、バンドの創設メンバーであるブライアン・ジョーンズの悲劇的な死後まもなく世に出た、重要な作品と言えるでしょう。

ブライアン・ジョーンズは、1969年2月より始まった『レット・イット・ブリード』のレコーディング中、バンド内での地位が低下していました。バンドは、ミック・テイラーを新たなギタリストとして迎え入れ、6月にはブライアンを解雇するという決断を下します。その後、ブライアンはソロ活動を目指しますが、7月3日、自宅プールで亡くなりました。

ブライアンの死後、バンドは7月5日にロンドンのハイド・パークで追悼フリーコンサートを開催しました。当初は新メンバーのお披露目を目的としていたこのコンサートは、急遽ブライアンを悼む追悼コンサートへと変更されました。コンサート後、新曲「ホンキー・トンク・ウィメン」がリリースされ、世界的な大ヒットとなります。

ブライアンの死は、ローリング・ストーンズというバンドにとって大きな転換点を意味しました。この出来事を境に、バンドは新メンバーと共に新たな時代へと歩み出します。そして、バンドの歴史の一つの章を閉じ、これまで発表した楽曲の中から代表的な作品を選び抜いたコンピレーション・アルバムのリリースを決意したのです。

『スルー・ザ・パスト・ダークリー』は、その年の9月にリリースされました。このアルバムの特徴的な点は、ジャケットデザインです。四隅を切り取った八角形の変形ダブルジャケットとなっており、内側にはブライアンへの追悼の言葉が記されていました。

イギリス盤とアメリカ盤では収録曲に違いがあります。イギリス盤は、より多くの楽曲が収録されています。デッカ・レコードは、アルバムの内容を充実させるため、1964年発表のEP『ザ・ローリング・ストーンズ』に収録されていた「ユー・ベター・ムーブ・オン」、アルバム『アフターマス』のアウトテイクでアメリカ盤『フラワーズ』に収録された「シッティン・オン・ア・フェンス」などを追加しました。さらに、イギリスではシングルとしてしか発表されていなかった「夜をぶっとばせ」、「ルビー・チューズデイ」、「この世界に愛を」、「ダンデライオン」、「ホンキー・トンク・ウィメン」も収録されています。

イギリスではチャート2位を獲得するなど、商業的にも成功を収めた『スルー・ザ・パスト・ダークリー』ですが、アメリカ盤は2002年にリマスターされて再発されました。しかし、イギリス盤はリマスターされず、現在では廃盤となっています。

ちなみに、アルバムタイトルの『Through the Past, Darkly』は、新約聖書「コリント人への第一の手紙」13章にあるフレーズ「through a glass, darkly（鏡を通して見るように、おぼろに）」のもじりであると考えられています。このタイトルは、過去の出来事を振り返り、未来へ向かうバンドの心情を象徴しているのかもしれません。

アルバムには、ローリング・ストーンズを代表する数々の楽曲が収録されています。「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」、「マザーズ・リトル・ヘルパー」、「ペイント・イット・ブラック」、「ルビー・チューズデイ」、「ストリート・ファイティング・マン」など、彼らのキャリアを語る上で欠かせない名曲が満載です。これらの楽曲は、バンドの音楽性と歴史を理解する上で、非常に重要な役割を果たしています。また、ミック・テイラーが参加した「ホンキー・トンク・ウィメン」は、新たな時代の到来を告げる、象徴的な楽曲と言えるでしょう。

『スルー・ザ・パスト・ダークリー』は、ローリング・ストーンズの変革期を凝縮した、重要なコンピレーション・アルバムです。バンドの歴史、そしてブライアン・ジョーンズの死という出来事を理解する上で、このアルバムは欠かせない存在となっています。

もう一度検索