こむら返り

こむら返り（腓腹筋 痙攣）

こむら返りは、主にふくらはぎの筋肉である腓腹筋に突発的に発生する、強い痛みを伴う不随意な筋収縮です。俗に「足が攣る」と表現される状態のことで、正式名称は「腓腹筋痙攣」とも呼ばれます。この痙攣はふくらはぎだけでなく、足の指、首、肩など体の他の部位にも類似した症状が現れることがあります。ただし、中枢神経系の障害によるジストニアや、特定の疾患によるテタニーなど、他の神経や筋肉の異常とは区別されます。

病態

こむら返りは、筋肉が自己の意思とは無関係に、持続的に強く縮こまる「筋の攣縮」と呼ばれる状態を示します。発作中は激しい痛みが伴い、触診すると該当する筋肉が硬く盛り上がっているのが分かります。多くの場合、数秒から数分で自然に収まりますが、非常に強い痛みを伴います。この症状は、激しい運動の後や、水泳中・水泳後、そして特に睡眠中に起こりやすい特徴があります。睡眠中のこむら返りは、痛みの強さから眠気を一気に吹き飛ばすほどですが、すぐに対処が難しい状況であるため、翌朝にふくらはぎの筋肉痛や寝不足が残ることが少なくありません。

原因

こむら返りの原因は多岐にわたります。特定の病気や薬剤に関係なく発生するものは「良性特発性筋痙攣」や「運動に伴う筋痙攣」として扱われ、良性とされます。しかし、中には何らかの基礎疾患の兆候として、あるいは使用している薬剤の副作用として現れる場合があり、これらは良性ではない筋痙攣と考えられます。

薬剤によるもの

様々な種類の薬剤がこむら返りを副作用として引き起こす可能性があります。これには、特定の種類の降圧薬（アンジオテンシンII受容体拮抗薬）、抗がん剤（シスプラチン、ビンクリスチン）、利尿薬、認知症治療薬（ドネペジル）、気管支拡張薬などの呼吸器関連薬、脂質異常症治療薬、経口避妊薬、結核治療薬、骨粗鬆症治療薬、抗パーキンソン病薬などが含まれます。また、芍薬甘草湯（漢方薬）も長期服用により偽性アルドステロン症や低カリウム血症を引き起こし、筋痙攣の原因となる可能性が報告されています。カフェイン、ニコチン、特定の風邪薬などに含まれる刺激性物質の摂取も関連することがあります。

離脱症候群

アルコールやバルビツール酸系薬剤、ベンゾジアゼピン系薬剤といった、中枢神経系に作用する物質の常用者が、それらの使用を急に中止した場合に生じる離脱症状の一つとして、筋痙攣が現れることがあります。

その他の症候・疾患

脱水状態や、体内のカリウム、ナトリウム、マグネシウムなどの電解質バランスの異常は、こむら返りの主要な原因の一つです。熱中症、激しい下痢、利尿薬の使用、血液透析などは、電解質異常や脱水を招きやすく、こむら返りを引き起こすリスクを高めます。その他にも、糖尿病、アルコール依存症、甲状腺機能機能低下症などの代謝性疾患や、末梢神経障害、運動ニューロン疾患といった神経系の障害も、こむら返りの原因となることがあります。

鑑別が必要な疾患

こむら返りと類似した症状を示す疾患には、ジストニア、テタニー、マッカードル病、里吉病などがあります。これらの疾患は治療法が異なるため、正確な診断には専門医の鑑別が必要です。

治療と予防

筋痙攣が特定の薬剤の副作用として疑われる場合は、医師と相談の上、原因薬剤の変更や中止を検討します。基礎疾患が原因である場合は、その疾患に対する治療が優先されます。

痙攣予防のために処方される薬剤もありますが、キニーネやベンゾジアゼピン系薬剤などは副作用のリスクから推奨されない場合が増えています。マグネシウム製剤も効果が限定的とされることがあります。芍薬甘草湯は、痙攣が起きている最中の頓服としては効果が報告されていますが、長期的な予防目的での連用は、先に述べたような副作用のリスクから慎重な検討が必要です。近年では、高齢者におけるビタミンK2サプリメントがこむら返りの症状を軽減する可能性を示唆する研究報告もあります。

日常生活における予防策としては、運動前後の軽いストレッチ体操が有効です。特に運動や発汗によって水分や電解質（ナトリウムやカリウムを含む）が失われた後は、これらを適切に補給することが重要です。

もしこむら返りが実際に発生してしまった場合は、該当する筋肉をゆっくりと引き伸ばすことで症状の緩和が期待できます。例えば、ふくらはぎの痙攣であれば、膝を伸ばしたまま足の指先を手前（脛の方向）に引っ張る、あるいは爪先立ちの姿勢でゆっくりしゃがみ込むなどの方法があります。これらの処置で筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減されることが多いです。また、患部を優しくマッサージしたり、足浴や蒸しタオルなどで温めたりすることも、血行を促進し症状の回復を助ける可能性があります。

こむら返りは一般的な症状ですが、頻繁に起こる場合や、症状が重い場合、あるいは他の気になる症状を伴う場合は、医療機関を受診し、原因を特定することが大切です。

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