せりあ丸

「せりあ丸」は、第二次世界大戦中に日本で建造された大型タンカーです。戦時標準船として設計された2TL型タンカーの8番船として、三菱長崎造船所で極めて短期間に竣工しました。その船名は、ブルネイの重要な石油産出地であるセリアに由来しています。

竣工直後、軍による直接の徴用を受けず、陸軍の輸送任務に従事する「陸軍配当船」に指定されました。1944年7月より、南方資源地帯と日本本土を結ぶ重要なヒ船団の一員として運航を開始しました。特に、当時米英潜水艦の活動により南方航路が極めて危険化する中で、複数回にわたりシンガポールへの往復を無事成功させ、石油などの戦略物資輸送に貢献しました。困難な状況下での船団の無事な往復は、奇跡に近いと評されていました。

1945年1月、せりあ丸は特に重要な任務を担うこととなります。切迫する戦況の中、日本本土への航空機用ガソリン緊急輸送を命じられ、「神機突破輸送隊」と命名されました。当時の南号作戦の一環として、強力な護衛艦艇をもって石油の強行輸送を計画していた軍に対し、浦部毅船長は船団編成や航路選定に関する独自の方針を進言し、一部は受け入れられました。この決死の航海では、シンガポールを出港後、マレー半島東岸、タイ湾、仏領インドシナ、南シナ海、台湾海峡、東シナ海、黄海、朝鮮半島沿岸といった従来の危険な航路を避け、中国大陸沿岸を進む変則的なルートを採用しました。航海中にはアメリカ軍の哨戒機に発見され、潜水艦の雷撃を受ける場面もありましたが、巧みな回避により難を逃れました。護衛艦は航路途中で交代しながら航海を続け、無事門司に到着した後、和歌山県の下津港で約1万7,000トンの航空機用ガソリンを陸揚げし、任務を完遂しました。この功績に対し、日本陸軍はせりあ丸に「武功旗」を授与してその労をねぎらいました。この時期に南方航路で石油輸送を成功させた船は極めて限られており、せりあ丸の成功は特筆されます。

その後、シンガポールへの再度の航海が計画されましたが、沖縄戦の激化により東シナ海の航行が困難となったため中止されました。石油輸送の必要がなくなったことから、貨物船への改造が検討され、兵庫県播磨造船所の近く、生島沖に停泊していました。1945年7月28日、瀬戸内海に残存する日本艦船を攻撃目標としたアメリカ軍の艦載機による空襲を受け、せりあ丸は被弾・炎上しました。消火が困難と判断され乗組員は退船し、船体は半没したまま放棄されました。この攻撃により、6名の乗組員が犠牲となりました。

終戦時、せりあ丸は損傷した状態で生島沖に放置されていましたが、1948年、日本油槽船により調査が行われました。当初は修理不能と判断されスクラップ目的で売却されましたが、浮揚後に再調査が行われた結果、修理可能と判断が覆されました。これを受け、日本油槽船は船体を買い戻し、大阪の日立造船桜島造船所で修理が実施されました。修理は1949年5月に完了し、SCAJAP（連合国軍総司令部日本商船管理局）の管理番号を与えられた後、日本と中東バーレーン間の石油輸送に従事し、復旧を遂げた日本の海上輸送を支えました。

1960年代には、アラビア石油が開発を進めていたカフジ沖油田において、陸上貯油基地が完成するまでの間、洋上に原油を一時貯蔵するステーション・タンカーとして使用されることになりました。せりあ丸は既に計画造船事業において解体対象船とされていたため、船主は日本油槽船のまま、アラビア石油および関連会社へ用船される形でこの任務に就きました。日立造船でステーション・タンカーとしての改造工事を受けた後、1961年3月末よりカフジ沖で操業を開始しました。このステーション・タンカー事業には、せりあ丸の他、同型船や他の戦時標準船も投入されました。しかし、1961年8月には機関室に隣接するタンクからのガス漏れが原因で爆発・火災が発生し、2名の機関部乗組員が犠牲となる痛ましい事故が起きました。この事故は造船所での艤装の不備が指摘されています。1962年7月、陸上貯油基地が完成したことによりステーション・タンカーとしての役目を終えました。カフジ沖で油の積み取りを完了した後、日本への回航は不可能と判断され、現地でスクラップされることが決定しました。1963年2月、シンガポールの解体業者に売却され、その生涯を終えました。

戦時中の決死の石油輸送、戦後の復旧と復興支援、そして油田開発における重要な役割と、せりあ丸は激動の時代を象徴する存在としてその名を残しています。

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