だれかが風の中で

だれかが風の中で

『だれかが風の中で』は、歌手・上條恒彦が1972年（昭和47年）にリリースしたシングル楽曲です。この曲は、同年フジテレビ系列で放送された人気時代劇『木枯し紋次郎』の主題歌として広く知られることになりました。従来の時代劇主題歌とは一線を画す斬新なサウンドと、上條の力強い歌唱が相まって大きな反響を呼び、結果的に1972年だけで約23万枚を売り上げる大ヒットを記録しました。

制作背景

この楽曲の誕生には、『木枯し紋次郎』の制作総指揮を務めた映画監督・市川崑の明確な意図がありました。市川は、この時代劇シリーズを単に時代劇として描くのではなく、むしろ西部劇のような雰囲気を持たせたいと考えており、それは主題歌の選定にも反映されていました。彼は、従来の時代劇主題歌の枠にとらわれない、新しい感覚の楽曲を求めたのです。

まず、作詞は市川の妻であり、市川作品の多くの脚本を手掛けた和田夏十に依頼されました。和田は、主人公・木枯し紋次郎の孤独でありながらも力強く生きていく姿、そしてその中に垣間見える希望を歌い上げる歌詞を書き上げました。感情のほとばしりを表現するために、連用中止法を効果的に用いた、芯のある表現が特徴です。

次に、作曲を依頼されたのは、当時フォークバンド「六文銭」を率いるフォークシンガーの小室等でした（当時28歳）。市川監督は小室に対し、『木枯し紋次郎』シリーズの根底にあるテーマが「走る」ことであると伝え、さらに自身が好む音楽として、映画『明日に向って撃て！』の挿入歌「雨にぬれても」や、サイモン＆ガーファンクルの「コンドルは飛んでいく」といった楽曲の雰囲気を好むことを明かしました。バート・バカラックの熱心なファンでもあった小室は、市川の要望や自身の嗜好を踏まえ、「雨にぬれても」に代表されるバカラック風のテイストを参考に作曲を進めました。小室によれば、当初完成した原曲は「ボブ・ディランの曲のような渋く地味なもの」でありつつも、彼自身にとっては「カッコイイと思えるもの」だったといいます。

この原曲は、次にアレンジャーの寺島尚彦のもとに持ち込まれ、編曲が依頼されました。寺島は、後に「さとうきび畑」の作詞・作曲でも知られるように、情景や叙情を描写する手腕に定評がありました。彼はこの原曲を見事にアレンジし、映画『ソルジャー・ブルー』やサム・ペキンパー監督の一連の西部劇主題歌を思わせるような、軽快でありながらも雄大なスケール感を持つ楽曲へと昇華させました。

歌手の選定にあたり、小室等は迷わず上條恒彦を指名しました。その前年、1971年の第2回世界歌謡祭において、小室等が率いる六文銭と上條恒彦が急遽組んだユニットが「出発の歌」でグランプリと歌唱賞を同時に受賞しており、その実績と当時の話題性の高さが大きな理由でした。また、小室自身にとって上條との仕事がしやすかったことも、決め手の一つとなったようです。

楽曲の反響とその後

こうして完成した『だれかが風の中で』は、上條恒彦の力強く情感豊かな歌声と相まって、当時のテレビ時代劇のイメージとは大きく異なる、異色の主題歌となりました。しかし、この従来の枠にとらわれない新鮮なサウンドと世界観が、かえって幅広い層の視聴者や音楽ファンに受け入れられました。『木枯し紋次郎』が高視聴率を獲得したことも相まって、楽曲は番組とともに浸透し、発表年の1972年中にシングル23万枚を超える大ヒットを記録し、その年を代表する楽曲の一つとなりました。

リリースから時を経て、1999年（平成11年）には、トヨタ自動車のミニバン「グランドハイエース」のCMソングとしても起用され、再び注目を集めました。

収録曲

A面
だれかが風の中で
作詞：和田夏十
作曲：小室等
編曲：寺島尚彦

B面
橋
作詞：土井大助
作曲：すぎやまこういち
編曲：前田憲男

主なカバー

河島英五（1990年 シングルリリース）
水木一郎（アニメ『てなもんやボイジャーズ』エンディング主題歌）

もう一度検索