寺島尚彦

寺島 尚彦

1930年6月4日に栃木県で生まれた寺島尚彦（てらしま なおひこ）は、日本の音楽界において、作詞家、作曲家、そして教育者として多大な足跡を残しました。洗足学園音楽大学で教授を務め、後進の指導にも尽力しました。ソプラノ歌手の寺島夕紗子は次女にあたります。

少年時代を東京で過ごし、開成学園に学びました。大学進学を翌年に控えた年末、母校出身で東京芸術大学作曲科の教授だった池内友次郎と巡り合う機会を得たことが、その後の人生を決定づけます。池内氏から東京芸術大学への進学を強く勧められた寺島は、1949年に同大学の音楽学部作曲科に入学を果たしました。在学中の1951年には、日本音楽コンクールの作曲部門で第3位に入賞し、その才能を早くから開花させました。

大学卒業後も音楽活動を続け、特にシャンソン音楽に深く関わりました。彼の創作活動における最も重要な転機の一つは、1967年に初めて沖縄を訪れたことでした。この旅で、彼は第二次世界大戦における沖縄戦の悲惨な歴史と、そこに暮らす人々の苦難を肌で感じ、深い感銘を受けました。この経験が、後に自身の代表作となる楽曲『さとうきび畑』を生み出す原動力となりました。この曲では、作詞と作曲の両方を自ら手掛け、戦争の悲劇を静かに、しかし力強く歌い上げています。

また、寺島尚彦は純粋音楽の分野だけでなく、映像音楽も手掛けました。特に、1970年代初頭に放送されたピー・プロダクション製作の特撮テレビ映画『スペクトルマン』では、その劇伴音楽を担当し、多くの視聴者に親しまれました。テレビドラマ『木枯し紋次郎』の主題歌『誰かが風の中で』の編曲も行っています。

代表作である『さとうきび畑』は、「ざわわ　ざわわ　ざわわ」という独特のフレーズで広く知られています。この曲は、当初は歌手の田代美代子のために作られましたが、発表後、世代やジャンルを超えた数多くの音楽家たちによって歌い継がれることになります。森山良子によるNHK「みんなのうた」での歌唱（新旧2度のバージョンがある）が特に有名ですが、初回放送時はちあきなおみが担当しました。その他にも、上条恒彦、実の娘である寺島夕紗子、夏川りみ、松浦亜弥など、多岐にわたるアーティストがそれぞれの解釈でこの歌を歌い、そのメッセージを伝え続けています。2003年9月には、この楽曲をモチーフにしたテレビドラマ『さとうきび畑の唄』（TBS系）が放送され、再び大きな注目を集めました。

寺島尚彦の創作活動は多岐にわたり、数多くの作品を残しています。童謡分野では、『たのしいね』『ぶうぶうぶう』などが子供たちに親しまれました。合唱曲では、NHK全国学校音楽コンクールの課題曲を複数手掛けたほか、日野市立三沢台小学校や公立千歳科学技術大学など、多くの学校の校歌を作曲しました。器楽曲、歌曲、映画やテレビドラマの劇伴音楽など、その活動範囲は広範でした。

教育者としては、洗足学園音楽大学で教鞭を執り、多くの若い音楽家を育成しました。また、自身の作曲技法や音楽思想に関する著書も出版しています。

2004年3月23日、寺島尚彦は肺腫瘍のため、73歳でその生涯を閉じました。彼の残した作品、特に『さとうきび畑』は、単なる楽曲としてだけでなく、平和への願いや歴史の記憶を伝える大切な文化遺産として、今なお多くの人々に歌い継がれ、心に響いています。作詞家、作曲家、そして教育者として、日本の音楽史に確かな足跡を刻んだ人物と言えるでしょう。

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