やんさんま祭り

やんさんま祭りとは

「やんさんま祭り」は、富山県射水市加茂中部の下村加茂神社で、毎年5月4日に行われる伝統的な流鏑馬の神事です。この祭りは、創建当時から始められたとされ、「やんさんま」という名称は流鏑馬が訛ったものと伝えられています。京都の上賀茂神社で行われている競馬会神事が起源とされ、この地域独特の神事として発展してきました。

祭りの特徴

この祭りの最大の特徴は、流鏑馬と「牛乗式（牛つぶし）」という、全国でも珍しい神事が行われる点です。1967年（昭和42年）には、富山県の無形民俗文化財に指定され、2006年（平成18年）には「とやまの文化財百選（とやまの祭り百選部門）」にも選定されました。しかし、2020年（令和2年）と2021年（令和3年）には、新型コロナウイルス感染症の影響で、一部の神事が中止となりました。

祭りの日程

祭りは、5月3日の宵祭から始まり、4日の本祭、5日の裏祭と続きます。

宵祭（5月3日）： 宵祭走馬の儀や宵祭流鏑馬の儀などが行われますが、近年は簡略化されています。かつては獅子舞の舞始祭も行われていました。
本祭（5月4日）： 朝8時の悪魔祓いの獅子舞から始まり、神馬・走馬の儀、御戸開きの儀、神幸式、神馬式、御旅所の儀、そして牛乗式へと続きます。その後、還御、例祭式、九遍式が行われ、最後に流鏑馬式が行われます。
裏祭（5月5日）： 午後2時頃から舞納祭（獅子舞）、例祭成就報賽祭が行われ、祭りのすべての行事が終了します。

牛乗式（牛つぶし）

牛乗式は、この祭りの核心とも言える神事です。甲冑を纏い、赤面の大鼻の面を被った若者が、鞍を付けた牡牛に乗ります。この若者は「王鼻（田の神）」の化身であり、兜の中天に挿した和紙の牡丹の花が神の依代となります。若者は1丈3尺の弓を持ち、境内に入ると、まず「天下泰平」「五穀成就」を祈願して拝殿の屋根（北方）に矢を放ちます。その後、境内の御旅所付近を3周し、若衆が牛に駆け寄って押さえつけます。牛は暴れますが、多くの若衆によって疲弊し、最終的には地面に押し付けられて座り込んでしまいます。この神事は、田の神が乗った牛を鎮め、五穀豊穣を願うとともに、雨乞いの意味も込められていると伝えられています。

流鏑馬式

流鏑馬式では、3人の馬乗役が、紅白の御幣を付けた龍笠に白紙の紙垂を着け、紫縮緬の鉢巻、緋羅紗の襦袢、白縮緬の襷掛けという伝統的な装束で馬に跨ります。彼らは拝殿西側から参道を駆け抜け、約5メートルの高さにある大的にそれぞれ3回ずつ矢を射ます。牛乗式と流鏑馬式で放たれた矢は、観客が奪い合うように拾い、五穀豊穣や家内繁栄を祈る「除魔招福」の霊符として、家に持ち帰り神棚に供えます。

獅子舞

この祭りの獅子舞は、小さな獅子頭を紋付・袴姿の氏子代表が頭上に掲げ、厳かに進む「行道獅子」です。2005年（平成17年）には、「とやまの文化財百選（とやまの獅子舞百選部門）」にも選定されています。

下村馬事公園

下村加茂神社に隣接する下村馬事公園は、1986年（昭和61年）に、祭礼で使われる流鏑馬用の馬の飼育と練習場として整備されました。

参考文献

『祭礼事典・富山県』（富山県祭礼研究会 編・桜楓社）1991年
『祭礼行事・富山県』（高橋秀雄・漆間元三 編・桜楓社）1991年
『北陸の祭り』（企画 北陸電力・チューエツ メディア制作室出版部）2001年
『とやまの文化財百選シリーズ(3) とやまの祭り』（富山県教育委員会）2007年
『とやまの文化財百選シリーズ(2) とやまの獅子舞』（富山県教育委員会）2006年
『射水のまつり』（射水市新湊博物館）2008年

外部リンク

加茂祭（5月4日） | 下村加茂神社

「やんさんま祭り」は、その独特な神事と歴史を通じて、地域の人々の信仰と文化を今に伝える貴重な祭りです。

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