アイルランド空軍

アイルランド空軍（英語: Irish Air Corps、アイルランド語: An tAerchór）は、アイルランド共和国を防衛するアイルランド国防軍の一部を構成する航空部隊です。

歴史

アイルランド空軍の創設は、アイルランドが英国からの独立に向けて交渉を進めていた1921年にまで遡ることができます。もし独立交渉が決裂した場合に、重要な指導者であったマイケル・コリンズ氏をロンドンから緊急に脱出させるための秘匿計画があり、そのためにロンドン郊外の飛行場で待機していた複葉機が、部隊の歴史の始まりと位置づけられています。この脱出作戦は実際には実行されませんでしたが、1922年にアイルランド自由国が樹立された後、新たな国家の航空戦力として同年6月から軍用航空機の導入が開始されました。その年の終わりまでには、アイルランド空軍は合計10機の航空機と約400名の要員を擁する組織へと成長しました。初期の重要な装備としては、ブリストルF.2B複葉戦闘機が6機含まれていました。

1930年代は予算が限られていたものの、部隊は近代化を進めました。1938年には4機のグロスター グラディエーター戦闘機が導入されました。さらに8機の追加発注が行われていましたが、1939年の第二次世界大戦の勃発により、これらの機体がアイルランドに引き渡されることは叶いませんでした。

第二次世界大戦中、アイルランドは公式に中立の立場を維持しました。アイルランド空軍が他国の航空機と本格的な空中戦を行った記録はありませんが、阻塞気球が撃墜された事例や、ドイツ軍機による意図しない誤爆に見舞われるといった出来事は発生しました。興味深いことに、戦争期間を通じて合計163機の他国の航空機がアイルランド領内に不時着あるいは強制着陸し、アイルランドはこれによりホーカー ハリケーンやフェアリー バトル、ロッキード ハドソンといった機体を入手する機会を得ました。特にホーカー ハリケーンは貴重な戦力となり、最大で20機程度が運用され、アイルランドの航空戦力の中核を担いました。

第二次世界大戦が終結した後、アイルランド空軍の装備は徐々に更新されていきました。ハリケーンはスーパーマリン シーファイアに置き換えられ、練習機型の複座型も導入されました。また、ジェット時代の到来に対応するため、1956年からはデ・ハビランド バンパイアジェット戦闘機が部隊に加えられました。

航空部隊の活動範囲は拡大し、1963年には初のヘリコプターとしてSA 316アルエットIIIが導入されました。合計7機が配備されたアルエットIIIは、特に捜索・救難任務で大きな役割を果たし、その運用期間である21世紀初頭までに3,300人以上の命を救助するという顕著な功績を残しました。輸送能力の向上も図られ、1970年代半ばには初のジェット輸送機としてBAe 125-700が導入されました。これに加えて、領海や沿岸を監視するための海洋哨戒機としてCASA CN-235なども運用されています。

特筆すべき活動として、1990年にアイルランドが欧州連合（EU）の議長国を務めた際、アイルランド空軍はガルフストリーム IIIビジネスジェット機を使用して、アイルランド軍として史上初となる世界一周飛行を実施しました。この歴史的な飛行のコースは、オタワ、アンカレッジ、札幌、ブルネイ、クチン、ムンバイ、ローマを経由するものでした。現在、この輸送機部隊で使用されている機体は、より近代的なガルフストリームIVに更新されています。

組織

アイルランド空軍の組織は、司令部および複数の航空団や支援部隊によって構成されています。主要な組織構成は以下の通りです。

空軍司令部（ケースメント飛行場に本部を置く）
第1作戦航空団
第3作戦航空団
第4支援航空団
第5支援航空団
通信情報支援戦隊
* 複数の基地

装備

現代のアイルランド空軍は、国土の防空を主な任務とする戦闘機部隊は保有していません。その主要な装備は、海洋や国境の監視、捜索・救難活動、人員および物資の輸送などに用いられる航空機やヘリコプターです。

固定翼機としては、哨戒機や輸送機、練習機などが運用されています。回転翼機、すなわちヘリコプターは、救難や輸送、支援任務において不可欠な役割を果たしています。個人装備としての小火器も部隊には配備されています。

2016年時点のデータによれば、アイルランド空軍は約733名の人員と24機の航空機を保有しています。

アイルランド空軍は、小規模ながらも多岐にわたる任務を遂行し、国家の安全保障と国民生活の支援に貢献しています。

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