アイルランド総督 (ロード・デピュティ)

アイルランド総督：イングランド王の代理人

アイルランド総督（Lord Deputy）は、イングランド王によるアイルランド支配において、国王の権力を代行した重要な役職でした。アイルランド卿の称号が用いられていた時代からアイルランド王国時代まで、長きに渡り存在しました。総督は、アイルランドにおける行政の最高責任者として、国王の政策を実行し、地方貴族や聖職者との交渉、軍事的指揮など、多岐にわたる職務を担っていました。

アイルランドという地理的特性と、現地アイルランド人との複雑な関係から、総督の地位は常に困難な課題に直面していました。アイルランドにおけるイングランドの支配は、完全なものではなく、常に反乱や抵抗の危険性がありました。総督は、こうした状況下で、国王の権威を維持し、アイルランドの安定を保つという難しい役割を負っていました。

アイルランド総督の一覧

アイルランド総督を務めた人物は多数にのぼり、その多くはイングランド貴族や高官でした。彼らの任期は、数年間から短期間まで様々であり、中には複数回総督を務めた者もいます。以下に、歴史上重要なアイルランド総督の一部を挙げます。リストは網羅的ではありませんが、それぞれの個性を示す重要な人物を選定しています。

ジョン・グレイ (John Grey): 1427年 - 1428年
第8代キルデア伯爵ジェラルド・フィッツジェラルド (Gearóid Mór FitzGerald, 8th Earl of Kildare): 1477年、1479年 - 1494年、1496年 - 1513年。フィッツジェラルド家はアイルランドにおいて強力な影響力を持っていました。
第4代（第7代）コドノーのグレイ男爵ヘンリー・グレイ (Henry Grey, 4th (7th) Baron Grey of Codnor): 1478年 - 1479年
第9代キルデア伯爵ジェラルド・フィッツジェラルド (Gerald FitzGerald, 9th Earl of Kildare): 1513年 - 1518年、1524年 - 1529年、1532年 - 1534年。父に続き、アイルランド政治に深く関わりました。
第2代サリー伯爵トマス・ハワード (Thomas Howard): 1520年 - 1522年
第8代オーモンド伯爵ピアーズ・バトラー (Piers Butler, 8th Earl of Ormonde): 1522年 - 1524年
サー・ウィリアム・スケフィントン (Sir William Skeffington): 1529年 - 1532年、1532年 - 1536年
初代グレイン子爵レナード・グレイ (Leonard Grey, 1st Viscount Grane): 1536年 - 1540年
アンソニー・セント・レジャー (Anthony St Leger): 1540年 - 1548年、1550年 - 1551年、1553年 - 1556年
エドワード・ベリンガム (Edward Bellingham): 1548年 - 1549年
総督代理 (Lord Justices) による執務: 1549年 - 1550年、1552年 - 1553年。総督不在時の代理体制。
ジェームズ・クロフト (James Croft): 1551年 - 1552年
第3代サセックス伯爵トマス・ラドクリフ (Thomas Radclyffe, 3rd Earl of Sussex): 1556年 - 1558年（ロード・レフテナント：1560年 - 1564年）。後にロード・レフテナントにも就任。
サー・ニコラス・アーノルド (Sir Nicholas Arnold): 1564年 - 1565年
サー・ヘンリー・シドニー (Sir Henry Sidney): 1565年 - 1571年、1575年 - 1578年
ウィリアム・フィッツウィリアム (William FitzWilliam): 1571年 - 1575年、1588年 – 1594年
第14代グレイ・ド・ウィルトン男爵アーサー・グレイ (Arthur Grey, 14th Baron Grey de Wilton): 1580年 - 1582年
サー・ジョン・ペロット (Sir John Perrot): 1584年 - 1588年
初代ソーンホーのラッセル男爵ウィリアム・ラッセル (William Russell, 1st Baron Russell of Thornhaugh): 1594年 – 1597年
第7代ストラボルジ男爵トマス・バー (Thomas Burgh, 7th Baron Strabolgi): 1597年
第2代エセックス伯爵ロバート・デヴァルー (Robert Devereux): 1599年（ロード・レフテナント）
マウントジョイ男爵（後の初代デヴォンシャー伯爵）チャールズ・ブラント (Charles Blount, Baron Mountjoy (later 1st Earl of Devonshire)) : 1600年 - 1603年（ロード・レフテナント：1603年 - 1604年）
サー・ジョージ・ケアリ (Sir George Cary): 1603年 - 1604年
初代チチェスター男爵アーサー・チチェスター (Arthur Chichester, 1st Baron Chichester): 1605年 - 1616年
オリバー・シンジョン（後の初代グラディソン子爵） (Oliver St John, 1st Viscount Grandison): 1616年 - 1622年
初代フォークランド子爵ヘンリー・ケアリー (Henry Cary, 1st Viscount Falkland): 1622年 - 1629年
初代ストラフォード伯爵トマス・ウェントワース (Thomas Wentworth): 1632年 - 1640年
クリストファー・ワンデスフォード (Christopher Wandesford): 1640年
第2代レスター伯爵ロバート・シドニー (Robert Sidney, 2nd Earl of Leicester): ロード・レフテナント：1640年 - 1643年
ヘンリー・アイアトン (Henry Ireton): 1650年 - 1651年
チャールズ・フリートウッド (Charles Fleetwood): 1652年 - 1657年
ヘンリー・クロムウェル (Henry Cromwell): 1657年 - 1658年（ロード・レフテナント：1658年 - 1659年）
エドマンド・ラドロー (Edmund Ludlow): 1659年 - 1660年
初代ティアコネル伯爵リチャード・タルボット (Richard Talbot, 1st Earl of Tyrconnell): 1687年 - 1688年

アイルランド総督の後継：ロード・レフテナント

アイルランド総督の役職は、後にロード・レフテナント（Lord Lieutenant）に引き継がれました。ロード・レフテナントは、アイルランド総督と同様に国王の代理人としてアイルランドを統治しましたが、権限や職務内容に若干の違いがありました。非公式には、ロード・レフテナントを「副王 (the Viceroy)」と呼ぶこともありました。

アイルランド総督の地位は、イングランドとアイルランドの歴史、そして両国の複雑な関係を理解する上で、非常に重要な役割を果たしていました。これらの総督たちが、それぞれの時代においてどのような政治的、軍事的な決断を下し、アイルランドの歴史にどのような影響を与えたのかを研究することは、英国・アイルランド両国の歴史を理解するために不可欠です。

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