アエガテス諸島沖の海戦

アエガテス諸島沖の海戦：第一次ポエニ戦争の終焉

紀元前241年3月10日、シチリア島西方のアエガテス諸島沖で、カルタゴとローマの間で歴史的な海戦が繰り広げられました。この海戦は、長きにわたる第一次ポエニ戦争の最後の戦いとなり、ローマの決定的な勝利によって、その終結を決定づけました。

戦いの背景

アエガテス諸島沖の海戦に至るまでの数年間は、第一次ポエニ戦争の中でも比較的平穏な時期でした。紀元前249年のドレパナ沖の海戦でのローマの敗北と、それに続く海難事故による艦船の損失は、ローマの海軍力を大きく低下させました。しかし、カルタゴは、この有利な状況を十分に活用することができませんでした。戦争は膠着状態に陥り、シチリア島での小規模な戦闘が散発的に行われるにとどまりました。

カルタゴの将軍ハミルカル・バルカは、シチリア島で徐々に優位を確立しつつありましたが、ローマは海上での優位を取り戻すために艦隊の再建を決意しました。しかし、20年にも及ぶ戦争によってローマの国庫は逼迫しており、艦隊再建は容易ではありませんでした。そこで、裕福な市民たちが愛国心を発揮し、個々に、あるいは共同で、軍艦一隻分の建造費用を寄付することで、約200隻の五段櫂船が建造・艤装され、乗員も準備されました。

紀元前242年に完成したローマ艦隊は、ガイウス・ルタティウス・カトゥルスが司令官、クィントゥス・ウァレリウス・ファルトが副司令官を務めました。過去の海戦の経験から、ローマの軍艦は悪天候にも対応できるよう、より頑丈に作られました。また、初期の海戦でローマに勝利をもたらしたものの、操艦を困難にする要因となっていた接舷攻撃用のカラス装置は装備されませんでした。カトゥルスとファルトは、安全な海域で乗員を徹底的に訓練し、海戦に備えました。

一方、カルタゴもローマの動きを黙って見ているわけではありませんでした。約250隻からなるカルタゴ艦隊が再建され、ハンノが司令官に任命されましたが、乗員の数は不足していました。

アエガテス諸島沖の海戦

カトゥルスは、シチリア西側の港湾都市であるリルバイウム（現在のマルサーラ）とドレパナ（現在のトラーパニ）の攻囲戦を再開し、同時に海上封鎖を行いました。これは、シチリアのハミルカル将軍に対するカルタゴからの補給と連絡を遮断するためでした。紀元前241年、元老院はカトゥルスをプロコンスルに任命し、引き続き軍の指揮を執らせました。

カルタゴ海軍は海上封鎖を破るために出撃しましたが、リルバイウムに向かうのに好都合な風を待つために、ハンノはアエガテス諸島に艦隊を待機させました。しかし、このカルタゴ艦隊の動きはローマに察知され、カトゥルスは封鎖を解いて決戦に向かいました。

3月10日の早朝、カルタゴ艦隊に有利な風が吹いたため、ハンノは直ちに出撃を命じました。カトゥルスは、風に向かって攻撃することの不利と、ハンノをシチリアに到着させ、ハミルカル将軍を救援させ、リルバイウムが開放されることのリスクを考慮し、ローマ艦隊に出撃を命じました。出撃前にマスト、帆、不要な物品を降ろし、荒天時の耐波性を向上させていました。カトゥルス自身は怪我のため戦闘に参加することができず、海戦での指揮は副司令官であるファルトが執ることになりました。

必要な物だけで海戦に臨んだローマ艦は機動性に優れていました。一方、カルタゴ艦は人員、装備、食料品で重量が増し、乗員も厳しい徴兵で集められた経験不足の兵士が多かったため、ローマ艦はその機動性を活かして優位に立ち、敵艦に対して衝角攻撃を仕掛けました。その結果、約半数のカルタゴ艦が沈没または鹵獲され、残りの半数は途中で風向きが変わり、ローマ艦隊から逃走することができました。この海戦では、沈んだローマ艦・カルタゴ艦の衝角、積荷のアンフォラ、ヘルメットなどが発見されています。

第一次ポエニ戦争の終結

海戦での決定的な勝利の後も、カトゥルスはハミルカルとその陸軍が守備するリルバイウム、エリュクス（現在のエリーチェ）、ドレパナに対する攻撃を継続しました。しかし、カルタゴ議会は艦隊を再建する負担を考慮し、戦争の継続に消極的になり、ハミルカルに対し、ローマとの講和交渉を開始することを命じました。そして副司令官のゲスコが派遣され、カルタゴに不利な条件ではありましたが、講和条約が締結され、ここに第一次ポエニ戦争は終結しました。

この勝利を記念して、カトゥルスはカンプス・マルティウス（現在のトッレ・アルジェンティーナ広場）にユートゥルナ神殿を建設しました。

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