アエーシュマ

アエーシュマは、ゾロアスター教において重要な位置を占める悪神の一柱です。その名はアヴェスター語で「狂暴」を意味し、この神の本質を端的に表しています。ザラスシュトラ自身が作ったとされる宗教詩『ガーサー』にも登場する由緒ある存在であり、古くからゾロアスター教の信仰体系に組み込まれてきました。

アエーシュマは、主に暴力を司る神として知られています。その姿は、毛むくじゃらの体と血塗られた武器を持つとされ、まさに暴力の権化として表現されます。彼は義なき暴力を振るうため、聖戦士である神スラオシャやミスラといった正義の神々の敵対者とされています。また、ゾロアスター教の終末論においては、救世主サオシュヤントの最大の敵としても描かれており、最終戦争でサオシュヤントによって倒される運命にあるとされています。

アエーシュマは、家畜に害をなす存在としても恐れられています。これは、彼が単なる暴力の象徴であるだけでなく、人々の生活を脅かす具体的な悪としても認識されていたことを示しています。さらに、飲酒による酩酊や粗暴な行為もアエーシュマに属すると考えられており、ゾロアスター教では、神聖なハオマを除くアルコール飲料の摂取は推奨されていません。

ゾロアスター教の創世神話によれば、世界の始まりの時、神々は善と悪のどちらかを選択しなければなりませんでした。その際、悪しき心（アカ・マナフ）を選んだ神々（ダエーワ）はアエーシュマの元に集まり、地上に住む人間たちの敵となったとされています。この神話は、アエーシュマが単なる悪神ではなく、悪の勢力の中心的な存在であることを示唆しています。

また、一説によると、ユダヤ教の伝説や旧約聖書外典であるトビト書に登場する悪魔アスモデウスは、アエーシュマの伝承がユダヤ教に取り入れられたものだと考えられています。この説が正しければ、アエーシュマの信仰はゾロアスター教の枠を超えて、他の宗教にも影響を与えたことになります。アエーシュマは、ゾロアスター教における悪の象徴としてだけでなく、異なる宗教や文化圏においても、悪の概念を理解する上で重要な要素として認識されている可能性があります。

このように、アエーシュマはゾロアスター教において、暴力、酩酊、そして家畜への危害といった様々な悪の側面を象徴する存在です。彼の存在は、ゾロアスター教の倫理観や善悪の概念を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。また、ユダヤ教との関連性も示唆されており、その影響範囲の広さも注目に値します。アエーシュマは、単なる悪神としてではなく、人間の抱える悪の根源を象徴する複雑な存在として、今後も研究が進められるべきテーマと言えるでしょう。

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