アシモフ初期作品集

『アシモフ初期作品集』は、SF界の巨匠アイザック・アシモフが作家活動を始めた1939年から、処女長編『宇宙の小石』が出版された1950年までの初期作品を集めた短編集です。アメリカで1972年に刊行され、アシモフが初めて出版社に持ち込んだ小説「宇宙のコルク抜き」など、27編の作品が収録されています。

この作品集の大きな特徴は、各短編が執筆順に並べられている点と、アシモフ自身による詳細な解説が添えられている点です。解説では、作品が生まれた背景や当時のアシモフの心境、私生活での出来事などが赤裸々に語られており、作家アシモフの原点を知る上で貴重な資料となっています。

この時期は、ファウンデーションシリーズ初期三部作や『われはロボット』に収録されたロボット工学三原則物、傑作「夜来たる」などが書かれた時期にあたり、アシモフは学位取得、結婚、戦争、兵役、就職と、人生の大きな転機を次々と経験しています。解説には、これらの出来事が執筆活動に与えた影響についても詳細に記されています。

興味深いのは、当時のアシモフの執筆動機が、あくまで雑誌掲載と原稿料を学費の足しにするためであったと語られている点です。後年の「書く事こそわが人生」とも言えるスタンスとは大きく異なり、若き日のアシモフの等身大の姿が垣間見えます。

収録作には、後の『鋼鉄都市』の原型となった「母なる地球」や、多くの異星人が登場する銀河系文明を描いた「地球種族」「虚数量」などがあります。これらの作品において、アスタウンディング誌の編集者ジョン・W・キャンベルと異星人の扱いに関する意見の相違が生じたことが、地球人類しか登場しないファウンデーションシリーズが書かれるきっかけになったというエピソードも紹介されています。

また、収録作はSF作品だけでなく、「著者よ!著者よ!」のようなファンタジー作品も含まれています。ファンタジー作品である「地下鉄の小男」「幽霊裁判」は、アシモフとジェイムズ・マクレイの共作です。「再昇華チオチモリンの吸時性」は、架空の物質チオチモリンに関する化学論文の形式をとったジョーク作品で、アシモフのユーモアセンスが光る作品です。

日本語訳は、アメリカのペーパーバック版と同様に、『カリストの脅威』『ガニメデのクリスマス』『母なる地球』の3分冊で1996年に早川書房からハヤカワ文庫として出版されました。

『カリストの脅威』収録の短編
カリストの脅威
太陽をめぐるリング
一攫千金
時の流れ
恐ろしすぎて使えない武器
焔の修道士
混血児
秘密の感覚

『ガニメデのクリスマス』収録の短編
地球種族
金星の混血児たち
虚数量
遺伝
歴史
ガニメデのクリスマス
地下鉄の小男
新入生歓迎大会
スーパー・ニュートロン
決定的!
幽霊裁判
時猫

『母なる地球』収録の短編
著者よ!著者よ!
死刑宣告
袋小路
関連なし
再昇華チオチモリンの吸時性
赤の女王のレース
* 母なる地球

『アシモフ初期作品集』は、アシモフの作家としての原点を知り、その後の作品とのつながりを見出すことができる、SFファン必携の一冊と言えるでしょう。

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