アジュバント

アジュバントとは

アジュバント（Adjuvant）という言葉は、広義には主要な薬剤や成分の効果を補佐する物質全般を指しますが、より一般的には、主成分が本来持つ作用を補助、増強、あるいは改良する目的で併用される物質を意味します。この語は、ラテン語の「助ける」を意味する「adjuvare」に由来しています。

免疫学・予防医学における役割

免疫学の分野では、アジュバントは「抗原性補強剤」とも呼ばれ、抗原（免疫反応を引き起こす物質）と共に投与されることで、その抗原に対する免疫応答をより強力に引き出す働きをします。特に予防医学の領域、すなわちワクチンにおいては、アジュバントはワクチンに含まれる抗原の効果を高め、より効率的に免疫を獲得させるために重要な役割を果たします。アジュバント自体は、免疫反応の標的となる抗原とは異なる物質です。

ワクチンへの応用とその歴史

ワクチンに用いられるアジュバントの歴史は古く、世界で最初に認可されたアジュバントであるアルミニウム化合物は、1926年に承認されて以来、80年以上にわたって使用されています。当初は硫酸アルミニウムカリウムが使われていましたが、後に水酸化アルミニウムやリン酸アルミニウムに取って代わられました。これらのアジュバントは、ジフテリア、破傷風、百日咳、インフルエンザ、肺炎球菌、A型・B型肝炎、HPVワクチンなど、様々な種類の不活化ワクチンで利用されています。

日本国内で現在使用されている日本製ワクチンの中にも、アジュバントが添加されているものがあります。例えば、小児用肺炎球菌ワクチン（プレベナー：リン酸アルミニウム使用）、B型肝炎ワクチン（ビームゲン：水酸化アルミニウム使用）、HPVワクチン、三種混合ワクチン、四種混合ワクチンなどがこれに該当します。

作用機序

アジュバントの作用機序は多様であり、完全に解明されていない部分も多いですが、いくつかのメカニズムが提唱されています。

抗原の局所滞留と徐放: アジュバントが抗原を吸着・不溶化することで、投与された局所に抗原が長時間留まり、ゆっくりと放出されることにより、免疫細胞との接触機会が増加します。
炎症反応の誘導: 投与局所に軽度の炎症を引き起こすことで、マクロファージなどの免疫細胞が集まりやすくなり、抗原が効率的に取り込まれ（貪食）、免疫システムに提示される過程（抗原提示）が促進されます。
リンパ球の活性化: 投与局所や所属リンパ節におけるT細胞やB細胞といったリンパ球の活性化を促し、免疫応答を強化します。
自然免疫系の刺激: 微生物由来の成分などを含むアジュバントは、抗原提示細胞の表面にある受容体を刺激し、これらの細胞が免疫応答の開始に必要な分子（例: B7分子）を発現させることで、免疫を効果的に誘導すると考えられています。

主な種類

アジュバントは、その性質によっていくつかの種類に分類されます。

沈降性アジュバント: 抗原が無機物に吸着し、懸濁液として投与されるタイプです。水酸化アルミニウム（アラム）、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウムなどが代表的です。抗原を投与局所に固定し、長期的に免疫刺激を与える利点がありますが、接種部位が硬くなりやすい（硬結）という欠点も指摘されています。
油性アジュバント: 抗原の水溶液を鉱油などで乳化させた油乳剤のタイプです。流動パラフィンやラノリンなどが用いられます。粘性が高いため接種時の痛みを伴うことがあり、体内に広がりにくく、接種部位に留まって硬結を引き起こす可能性があります。実験動物で強力な免疫応答を引き出す目的で使われるフロイントアジュバント（不完全フロイントアジュバントや結核菌死菌を加えた完全フロイントアジュバント）などが知られています。

安全性に関する議論

アジュバントの使用は、ワクチンの有効性を高める上で不可欠である一方、副反応のリスクを増大させる可能性も指摘されており、医療関係者には臨床上の注意が求められます。特にマスメディアが負の側面を強調して報道することで、一般に強い偏見が生じているとの見方もあります。

過去には、アルミニウムアジュバントとマクロファージ性筋膜炎（MMF）との関連が仮説として提唱されましたが、大規模な臨床試験ではこの仮説を支持する結果は得られていません。また、2009年の新型インフルエンザワクチン接種後に見られたナルコレプシーとの関連性について、欧州諸国やスカンジナビアでの研究がアジュバントの影響に言及した事例もあります。

2004年のある系統的レビューでは、アジュバントとして用いられるアルミニウム化合物が重篤または長期的な有害事象と関連することを示す証拠は見出されませんでしたが、証拠の質は低いと評価されました。2017年のコクラン共同計画によるレビューでは、新しいタイプのアジュバント「AS-04」とHPVワクチン接種後の症状との関連性について仮説が立てられているものの、その肯定・否定に必要な比較データが不足していると結論づけられています。さらに、2012年には世界保健機関（WHO）が、アルミニウムアジュバントと自閉症の関連を指摘する研究には科学的な欠陥があると指摘しています。

一方で、2011年には「アジュバント誘発性自己免疫症候群（ASIA）」という概念が提唱され、ワクチンやその他のアジュバント曝露後に様々な自己免疫症状が現れるケースが世界中の医師から報告されています。2016年までに約4500例の報告があり、そのうち約300例が重症で、重症例の多くがHPVワクチン、インフルエンザワクチン、シリコン、鉱油注射などに関連しているとされています。

アレルギー分野での使用

免疫応答を高めるアジュバントは、アレルギー疾患の分野でも注目されています。例えば、花粉症などのアレルギー反応において、アレルゲンに対する抗体産生を促進する物質もアジュバントと呼ばれることがあります。ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質がアレルギーのアジュバントとして働く可能性も考えられていますが、詳細なメカニズムはまだ不明です。

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