アッシュルバニパルのライオン狩り (浮き彫り)

アッシュルバニパルのライオン狩り：古代アッシリアの王権と象徴

アッシュルバニパルのライオン狩りは、新アッシリア帝国の王アッシュルバニパル（在位：紀元前669年 - 紀元前631年）の治世に制作された、一連の宮殿レリーフです。これらのレリーフは、ニネヴェの北西宮殿跡で発見され、現在、大英博物館の10a室に展示されています。アッシリア美術の最高傑作として広く認められ、当時の王権、宗教観、そして文化を今に伝える貴重な資料となっています。

レリーフの内容

レリーフには、アッシュルバニパル王が、檻から放たれたアジアライオンを狩る様子が描かれています。王は、矢、槍、剣などの武器を用いてライオンに立ち向かい、その勇敢さと力を誇示しています。これらの場面は、単なる狩猟の記録ではなく、王権を象徴する儀式的な行為として演出されています。ライオンは、自然の脅威、あるいは敵対する勢力の象徴として捉えられ、王がそれを打ち倒すことで、支配者としての正当性を示していたと考えられます。

レリーフは、ライオンの描写において、非常に写実的な表現が用いられています。ライオンの筋肉の動き、表情、そして苦悶の様子が、生き生きと表現されており、見る者に強い印象を与えます。一方で、人物の描写は、定型化された表現が用いられており、特に王は、常に横向きの同じポーズで描かれています。このような表現の違いは、ライオンの自然な力強さと、王の絶対的な権威を対比させる意図があったと考えられます。

歴史的背景

ライオン狩りのレリーフは、紀元前645年 - 紀元前635年頃に制作され、元々は宮殿の周囲を飾る装飾の一部でした。宮殿全体は、色鮮やかに塗装されており、レリーフもまた、その一部として、より鮮やかな印象を与えていたと考えられます。アッシュルバニパルは、新アッシリア帝国最後の偉大な王であり、彼の治世の後、帝国は衰退の一途を辿りました。紀元前612年には、ニネヴェが略奪され、帝国は崩壊しました。ライオン狩りのレリーフは、帝国の最盛期を象徴する美術作品であり、その後の帝国の崩壊を考えると、非常に象徴的な意味を持つと言えるでしょう。

ライオン狩りの伝統

メソポタミアにおいては、ライオン狩りは、古くから王族の特権とされてきました。ライオンは、自然の脅威であり、それを狩ることは、王の勇気と力を示す行為とされていました。また、ライオンは、宗教的な意味合いも持ち、王がライオンを狩ることは、神々への奉納行為とも考えられていました。アッシュルバニパル以前にも、多くのアッシリアの王が、ライオン狩りのレリーフを制作しており、その伝統は、アッシュルバニパルの時代にも受け継がれていたことがわかります。

宮殿レリーフ

アッシリアの宮殿は、レリーフによって広範囲に装飾されていました。レリーフは、石膏やアラバスターなどの素材で作られ、非常に浅い彫りが施されていました。レリーフには、ライオン狩りの場面だけでなく、王の遠征、宮殿の建設、神々への奉納など、様々な場面が描かれていました。これらのレリーフは、王の権威を示すだけでなく、宮廷の様子、人々の生活、そして当時の文化を伝える貴重な資料となっています。

レリーフの発見と保存

アッシュルバニパルのライオン狩りのレリーフは、1852年 - 1854年にかけて、ホルムズド・ラッサムとウィリアム・ロフタスによって、ニネヴェの北西宮殿で発掘されました。発掘されたレリーフの大部分は、大英博物館に送られ、以来、同博物館の目玉展示物として、一般市民や歴史学者から人気を集めています。レリーフは、その写実的な表現と、物語性によって、見る者を魅了し、古代アッシリア帝国の栄華を今に伝えています。

まとめ

アッシュルバニパルのライオン狩りのレリーフは、古代アッシリア帝国の王権、文化、そして宗教観を今に伝える貴重な美術作品です。その写実的な表現と、物語性によって、見る者を魅了し、古代メソポタミアの世界へと誘います。大英博物館に所蔵され、アッシリア美術の最高傑作として、世界中の人々に愛され続けています。

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