アドルフ・エルプスレー

アドルフ・エルプスレー（Adolf Erbslöh, 1881年5月27日 - 1947年5月2日）は、ドイツの画家であり、20世紀初頭の美術界において重要な役割を果たしました。彼は、マリアンネ・フォン・ヴェレフキンやアレクセイ・フォン・ヤウレンスキーと共に、ミュンヘン新芸術家協会の創立メンバーとして活動し、同時代の芸術運動に大きな影響を与えました。

エルプスレーは、ニューヨークで生まれましたが、幼少期にドイツへ帰国し、バルメンで教育を受けました。その後、商業の道に進むための教育を受けましたが、1901年、芸術への情熱からカールスルーエの美術学校で学び始めました。エルンスト・シュルトやルートヴィヒ・シュミット＝ロイテといった著名な画家に師事し、アレクサンデル・カノルトやゲオルク・タッペルトといった同世代の画家たちと親交を深めました。

1904年にミュンヘンへ移り住んだエルプスレーは、画家としての活動を本格化させました。彼は、親戚であり美術収集家でもあったオスカー・ヴィッテンシュタインと同じアパートで暮らし、絵の修業を続けました。さらに、ミュンヘン美術院でルートヴィヒ・ヘルテリッヒに師事し、研鑽を積みました。1907年には、裕福な実業家の娘と結婚し、経済的な安定を得ながら制作活動に専念することができました。

1908年、エルプスレーはマリアンネ・フォン・ヴェレフキンとアレクセイ・フォン・ヤウレンスキーと出会い、ミュンヘン新芸術家協会の創立メンバーとなりました。この協会は、ワシリー・カンディンスキーを理事長として発足し、エルプスレーは事務局を務めました。エルプスレーの友人であったカノルトやヴィッテンシュタインもこの協会に参加し、活発な芸術活動を展開しました。

エルプスレーは1909年に故郷のバルメンで初の個展を開催しました。この時期の彼の作品は、ヤウレンスキーの影響を強く受けたものでした。ミュンヘン新芸術家協会は、1909年12月に初のグループ展を開催し、エルプスレーも3点の作品を出展しました。1910年の第二回グループ展では、フランス人メンバーのピエール・ジリウーと共に、ヴェレフキン、ヤウレンスキーとパリを訪れ、ジョルジュ・ブラックやアンドレ・ドラン、パブロ・ピカソといった当時最先端の画家たちと交流し、作品の出展を依頼しました。

しかし、協会内部で意見の対立が生じ、カンディンスキーが理事長を辞任した後、エルプスレーがその地位を継ぎました。その後、1911年のグループ展を前に、カンディンスキーは、ガブリエレ・ミュンター、フランツ・マルクらと共に協会を脱退し、「青騎士」を結成しました。このグループ展は、ミュンヘン新芸術家協会にとって最後の展覧会となりました。

1913年、新芸術家協会のメンバーは、レオ・プッツらのグループ「Scholle」やパウル・クレーを中心に作られた「Sema」などと統合され、「ミュンヘン新分離派」のメンバーとなりました。第一次世界大戦が勃発すると、1915年にエルプスレーは徴兵され、軍務に就きました。1919年にミュンヘンに戻り、1920年代には「新即物主義」の運動にも関心を示しました。

1933年にナチスが権力を握ると、ミュンヘン新芸術家協会に参加した画家たちの作品は「退廃芸術」に指定され、作品を発表する場所を失いました。エルプスレーは、バイエルンの町イッキンクに引退し、1947年にそこで生涯を閉じました。彼の作品は、印象派の影響から、表現主義、そして新即物主義へと変遷を遂げ、同時代の芸術運動を映し出す鏡のような存在と言えるでしょう。彼の芸術的遺産は、20世紀初頭のドイツ美術史において、重要な位置を占めています。

エルプスレーの画業は、彼の生きた時代と密接に結びついており、彼の作品は、激動の時代を生き抜いた一人の画家の内面を映し出しています。彼は、常に新しい表現を追求し、同時代の芸術家たちとの交流を通じて、自身のスタイルを確立していきました。その作品は、現在も多くの人々に感動を与え続けています。

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