アブド・アッラフマーン1世

アブド・アッラフマーン1世：後ウマイヤ朝の創始者

アブド・アッラフマーン1世（731年 - 788年）は、後ウマイヤ朝の初代アミールであり、イベリア半島におけるイスラム王朝の基礎を築いた人物です。ウマイヤ朝のカリフ、ヒシャームの孫として生まれましたが、アッバース朝によるウマイヤ朝の滅亡という激動の時代に翻弄され、波乱万丈な生涯を送りました。

生い立ちと逃避行

731年、アブド・アッラフマーンはダマスカス郊外で生まれました。母親はベルベル人のナーフサ族出身であり、彼の容姿にも影響を与えました。750年、アッバース朝によってウマイヤ朝が滅ぼされると、ウマイヤ家の王族は虐殺される運命にありました。しかし、アブド・アッラフマーンは辛くもシリアを脱出し、旧臣の助けを借りながら、母の故郷であるモロッコへと逃れました。逃走中には変装を重ね、身を隠しながらの逃避行を余儀なくされました。ベルベル人の血を引く彼は、その地で温かく迎えられ、ウマイヤ朝再興への足がかりを築くことになります。

後ウマイヤ朝の建国

755年、アブド・アッラフマーンはウマイヤ朝の旧臣たちの支援を得て、イベリア半島に上陸し、勢力基盤を確立します。そして、756年5月14日のムサラの戦いで勝利を収め、コルドバに入城し、アミールとして即位しました。これにより、後ウマイヤ朝が成立し、彼はその初代アミールとなったのです。

統治と内政

即位後、アブド・アッラフマーン1世は、アッバース朝のカリフ、マンスールの策略による反乱を鎮圧し、その武威を示しました。反乱軍の指揮官の首を塩漬けにしてマンスールに送りつけたという逸話も残っています。国内では、権力安定化のために反抗勢力を徹底的に弾圧する一方で、コルドバの大モスク（メスキータ）の建設をはじめとする大規模な建設事業を推進しました。また、統治機構の整備にも力を注ぎ、後世に受け継がれるべき原型を築き上げました。統治を担ったのは、東方から移住してきたウマイヤ家の一族やマウラー（従属民）たちでした。

対外関係

国内の反抗勢力の弾圧は、一部勢力がフランク王国のカール1世に援軍を要請する事態を招き、フランク軍の侵攻を受けることとなりました。778年のサラゴサ攻めでは、カール1世率いるフランク軍に苦戦を強いられましたが、フランク国内のザクセン族の反乱により、フランク軍は撤退を余儀なくされました。この時のカール1世の退却戦は、後の12世紀フランスの武勲詩『ローランの歌』の題材となりました。

アミールとしての統治

アブド・アッラフマーン1世は、アル＝アンダルスにウマイヤ朝を再興しましたが、イスラーム世界全体の支配者ではなかったため、カリフを称することはありませんでした。これは、アッバース朝のカリフの存在を認めないという意思表示であり、イスラーム共同体の統一を重視する考えに基づいたものでした。彼からアブド・アッラフマーン3世までの後ウマイヤ朝の歴代アミールは、この方針を貫き、アッバース朝のカリフを認めず、アミールの称号を用い続けました。

死と後継

マンスールから「クライシュの鷹」と称されたアブド・アッラフマーン1世は、788年に58歳で死去しました。後継者には、兄のスライマーン王子との競争に勝利したヒシャーム1世が指名されました。

アブド・アッラフマーン1世は、激動の時代を生き抜き、イベリア半島に後ウマイヤ朝を築き上げた傑物でした。彼の功績は、その後のイベリア半島の歴史に大きな影響を与え、コルドバを文化的な中心地として発展させる礎となりました。

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