アブラギリ

アブラギリ（油桐）

アブラギリ（学名：Vernicia cordata）は、トウダイグサ科に分類される落葉性の高木です。この樹木は、その大きな種子から「桐油（きりゆ、英語ではtung oil）」という名の油が採取されることで知られ、古くから塗料などの原料として利用されてきました。分類学的には、かつてはAleurites属に含められることもありましたが、近年では東アジアに分布するアブラギリやシナアブラギリをVernicia属として区分することが一般的です。

形態的特徴と分布

アブラギリは、日本の西側地域（西日本）や中国大陸に自生地が点在しており、古くからその有用性に着目され、栽培も行われてきました。樹高は比較的大きくなり、秋には葉が落ちる落葉樹です。

その葉は、日本の代表的な樹木であるキリの葉に似た、掌状や心臓形に近い形をしています。葉の付け根部分、葉柄と葉身の境目には、柄が付いた蜜を分泌する腺（蜜腺）が左右に一対存在することが、この植物の形態的な特徴の一つとして挙げられます。

開花期は例年6月頃で、枝先に円錐形に集まって咲く「円錐花序（えんすいかじょ）」を形成します。個々の花は直径が約3センチメートルほどで、5枚の白い花弁を持ち、多くの花が集まって咲く様子は遠目にもよく目立ち、美しい景観を作り出します。秋になると、丸い形をした果実が熟します。この果実は蒴果（さくか）と呼ばれるタイプで、硬い殻に包まれた内部には、油分を豊富に含んだ大きな種子が通常6個収められています。

桐油の性質と利用、毒性

アブラギリの種子から搾られる油は、その名の通り桐油と呼ばれます。この油は、不飽和脂肪酸を豊富に含有する「乾性油（かんせいゆ）」の一種です。乾性油は空気中の酸素と反応して徐々に固まる性質を持つため、この桐油は古くから様々な工業用途に活用されてきました。

具体的には、木材の表面に塗ることで保護や防水効果を得られる塗料の原料として、あるいは印刷インキや、雨具などに用いられる油紙の製造材料として、かつては日本を含む東アジア各地で盛んに利用されていました。しかし、桐油にはエレオステアリン酸をはじめとする、人にとって毒性を持つ不飽和脂肪酸が含まれています。このため、桐油を食用に供することは絶対にできません。

桐油が持つこの毒性から、アブラギリは古くから「ドクエ（毒荏）」という別名でも呼ばれてきました。これは、古くからその種子の油が食用や塗料などに広く利用されてきた「エゴマ（荏）」に対して、「毒のある荏」という意味合いで対比的に名付けられたと考えられています。

現在の桐油供給源と近縁種との違い

現代において、商業的に「桐油」として流通し、主要な原料として用いられているのは、アブラギリそのものから採取される油よりも、中国原産の「シナアブラギリ（オオアブラギリ、学名：Vernicia fordii）」という近縁種から得られる油が主流となっています。シナアブラギリも同様に種子から油が採取されますが、アブラギリよりも樹木としてより大きく成長し、葉の基部にある蜜腺に柄がなく葉に直接付着している点が、形態的な主な違いです。

シナアブラギリから得られる油は、主に中国などから日本へも多量に輸入されており、特に家具の表面に塗る保護塗料や仕上げ塗料として、現在でも広く利用されています。

「桐」と名の付く植物に関する注意

「桐」あるいは「〜アブラギリ」という名称を持つ植物はいくつか存在しますが、これらがすべて同じグループに属するわけではないため、混同しないように注意が必要です。

近年、バイオディーゼル燃料の潜在的な供給源として研究や開発が進められている「ナンヨウアブラギリ（ジャトロファ）」という植物がありますが、これはアブラギリとは分類学的に全く異なる、トウダイグサ科ではありますがアブラギリ属（Vernicia）ではない別の属（Jatropha属）に属する樹木であり、混同すべきではありません。
また、「桐」という漢字は、特に台湾においては、主にこのアブラギリを指す言葉として用いられています。アブラギリは、美しい白い花を咲かせることから、台湾を象徴する植物の一つとしても見なされています。
* 加えて、古来中国において「桐」という漢字が指し示したのは、多くの場合、アオイ科に分類される「アオギリ（梧桐）」でした。これは、日本で一般的に「桐」として親しまれているキリ科の「キリ」ともまた異なります。そして、今回解説しているトウダイグサ科のアブラギリは、これらアオギリや日本のキリのいずれとも、植物学的には非常に遠縁にあたる、全く別の種類の樹木であることを理解しておくことが重要です。

アブラギリは、その種子に含まれる油に毒性を持つという危険性の一方で、乾性油である桐油を供給する有用植物として、人類の歴史の中で特に塗料産業において重要な役割を果たしてきました。現代では主な供給源がシナアブラギリに移りましたが、アブラギリそのものも西日本などに自生する植物として、また台湾では象徴的な存在として認識されています。その特徴的な形態や桐油の利用の変遷、そして他の「桐」と名の付く植物との違いを理解することで、この興味深い樹木への理解が深まります。

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