アミュコス

ギリシャ神話に登場する「アミュコス」（古希: Ἄμυκος, Amykos）という名は、複数の異なる人物に用いられています。彼らはそれぞれ異なる物語で重要な役割を果たしており、特に二人の人物が著名です。

ケンタウロスのアミュコス

一人のアミュコスは、半人半馬の種族であるケンタウロスの一員です。彼はオピーオーンの息子とされ、ラピテース族の王ペイリトオスとその妻ヒッポダメイアの結婚式に他の多くのケンタウロスと共に招かれました。

この結婚式は、ケンタウロスたちが酒に酔って暴れ出したことから、ラピテース族との間に凄惨な戦闘「ケンタウロマキア」へと発展しました。オウィディウスの叙事詩『変身物語』によれば、この戦いの最中、アミュコスは聖域から火の灯る大きな燭台を奪い取りました。そして、それを高く掲げてラピテース族の戦士ケラドーンの額に叩きつけ、彼を即座に殺害しました。しかし、彼の凶行も長くは続きませんでした。別のラピテース族の戦士ペラテースが、楓の木で作られた頑丈なテーブルの脚を引き抜き、その強力な一撃をもってアミュコスを打ち殺したと伝えられています。

ポセイドーンの子のアミュコス

もう一人の著名なアミュコスは、海神ポセイドーンの息子として知られています。彼の母は、ビーテューニア地方のニュムペーであるメリアーであったとも、あるいは残虐なエジプト王ブーシーリスの娘メリアーであったとも伝えられています。彼はミュグドーンという兄弟を持っていたとされます。

このアミュコスは、小アジア北西部のビーテューニア地方に住むベブリュケス人の王でした。彼は非常に傲慢で残虐な人物として描かれています。自らの領土を訪れる異邦人に対し、無理やり自分との拳闘試合を強要し、多くの来訪者を打ち殺したと言われています。また、彼は鉄の産地を巡って、近隣のマリアンデューノイ人の王リュコスとも対立していました。

イアーソーン率いるアルゴナウタイが金羊毛を求めて旅の途中でビーテューニア地方に立ち寄った際、アミュコスは彼らの素性や目的を問うこともなく、いきなり彼らのうち最も強い者に自分との拳闘試合を挑むよう要求しました。この不遜な態度はアルゴナウタイたちの激しい怒りを買いましたが、特にディオスクーロイの一人であり、優れた拳闘の技を持つポリュデウケースがこれに憤慨し、自ら試合に応じました。

海岸の砂浜で行われた一対一の拳闘は、非常に激しいものでした。しかし、やがてポリュデウケースがアミュコスの防御の隙を突き、その耳元に決定的な一撃を叩き込みました。この強打によりアミュコスは頭骨を砕かれ、その場で絶命しました。王の死を目撃したベブリュケス人たちは、アルゴナウタイに襲いかかり報復しようとしましたが、アルゴナウタイたちは果敢に応戦し、ベブリュケス人たちを打ち破りました。生き残った者たちは恐怖に駆られて逃げ去りました。その後、アルゴナウタイたちはアミュコスが所有していた羊の群れを船に積み込み、この地を後にしました。

ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の中では、アミュコスの血を引く子孫とされるブーテースという人物が登場します。

その他のアミュコス

上記以外にも、神話には「アミュコス」という名前を持つ人物がわずかに登場します。

トロイアの王プリアモスの息子の一人。彼の兄弟であるディオーレースと共に、イタリアの英雄トゥルヌスに討たれたと伝えられています。
トロイア陥落後、英雄アイネイアースと共にイタリアを目指して航海したトロイア人の一人としても、同名のアミュコスが確認できます。
* トロイア人の戦士ミマースの父の名もアミュコスであると記されています。

このように、「アミュコス」という名前はギリシャ神話の様々な文脈、特に戦いや英雄譚の中で、いくつかの異なる人物に帰せられています。

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