ブーシーリス

ブーシーリス

古代ギリシアの神話に登場する人物で、エジプトを統治したとされる王です。その名は長母音を省いてブシリスとも表記されます。彼の出自については、海神ポセイドーンと、エジプト王エパポスの娘リューシアナッサ、あるいはナイル川の河神ネイロスの娘アニッペーとの間に生まれたと語り継がれています。アムピダマースとメリアーの父でもあります。ブーシーリスの名は、明らかにエジプトにおけるオシーリス信仰の中心地であるブシリスに由来しているとされています。

ブーシーリスはとりわけその残虐な統治で知られています。国土が長い間深刻な作物の不作に見舞われた際、キュプロス島から訪れた予言者プラシオスが、毎年異国人を最高神ゼウスへの生贄として捧げるならば豊穣が回復すると告げました。驚くべきことに、ブーシーリスはその予言に従うどころか、最初にその予言者自身を捕らえて生贄として捧げたと伝えられています。そして以降、彼はエジプトにやってくる異国人を次々と捕縛し、残虐な儀式としてゼウスへの生贄とする慣習を確立しました。この非道な行為は多くの犠牲者を生み出したのです。

この残虐な王の行いは、英雄ヘーラクレースの冒険と交錯することになります。ヘーラクレースがヘスペリデスの園にある黄金の林檎を手に入れるための旅の途中でエジプトに立ち寄った際、ブーシーリスによって捕らえられ、生贄にされそうになります。しかし、強大な力を持つヘーラクレースは、自らを縛っていた縄を容易に断ち切り、自由の身となりました。そして、自分を生贄にしようとしたブーシーリス王と、その息子であるアムピダマースを討ち取ったと伝えられています。これにより、ブーシーリスによる異国人生贄の悪習は終焉を迎えたとされています。

ただし、この神話には複数の伝承が存在します。一説には、干ばつを収める予言をしたのはピュグマリオーンの兄弟の子であるトラシオスであり、彼は予言の正しさを示すために自らを最初の犠牲にしたとも語られています。また、ヘーラクレースがブーシーリスの悪行を知り、自ら進んで捕らわれたふりをし、機を見てブーシーリスだけでなくその神官たちをも皆殺しにしたという伝承もあります。

さらにシケリアのディオドーロスによれば、ブーシーリスはアトラースの娘たちであるヘスペリデスを手に入れようと企て、海賊に彼女たちを誘拐させました。しかし、彼が異国人生贄を繰り返していたことを知ったヘーラクレースによって討たれただけでなく、ヘスペリデスを誘拐した海賊たちもまたヘーラクレースに退治されたと記録されています。

家族に関する情報としては、娘のメリアーが海神ポセイドーンとの間にアミュコスを産んだとされています。

ブーシーリスは、その残虐な統治と、最終的に英雄ヘーラクレースによって討伐された人物として、ギリシア神話の中に語り継がれています。古代ギリシアの悲劇作家エウリーピデースも、彼を主題としたサテュロス劇『ブーシーリス』を著しましたが、残念ながら現在では散逸してしまっています。彼の物語は、神話における正義の実現と、悪に対する英雄の勝利を示すエピソードの一つとして語り継がれています。

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