アメリカ合衆国によるニカラグア占領

アメリカ合衆国によるニカラグア占領： バナナ戦争とサンディーノの抵抗

1898年から1934年にかけて、アメリカ軍はラテンアメリカ諸国に介入しました。この一連の出来事はバナナ戦争と呼ばれています。その中で、1912年から1933年まで続いたアメリカ合衆国によるニカラグア占領は、中米地域におけるアメリカ合衆国の影響力を確立するための軍事介入でした。

占領の背景

米英戦争終結後、アメリカ合衆国はカリブ海・中米地域への進出を企図しました。モンロー主義を掲げ、ヨーロッパ諸国と南北アメリカの相互不干渉を主張することで、ラテンアメリカ地域におけるヨーロッパ列強国の影響力を排除し、自国の独占的な支配を確立しようとしました。

中米地峡は、大西洋と太平洋を結ぶ運河建設の候補地であり、欧米諸国にとって海上・陸上交通の要所でした。当初、ニカラグアが運河建設の候補地として有力でしたが、1898年の米西戦争で勝利したアメリカ合衆国は、中米地域への進出を本格化させ、各地に軍隊を派遣・駐留させました。ニカラグアでは、こうしたアメリカ合衆国の覇権主義的な進出に対して反米ナショナリズムが高まりました。アメリカ合衆国は反米的な姿勢をとるニカラグアでの運河建設を諦め、パナマでの運河建設権を得ることとなりました。

当時のニカラグア大統領ホセ・サントス・セラヤは、自国の手による独自の運河建設計画を目指し、小国のニカラグアが強大なアメリカ合衆国に対抗できるよう、隣国のホンジュラスやエルサルバドルに介入し、中米地域を自らの支配下に置く構想を打ち立てました。中米カリブ地域での権益を重視するアメリカ合衆国はこれを嫌い、セラヤ政権に介入することとなりました。

セラヤ政権の転覆とアメリカの介入

1909年12月、自由党のセラヤと対立していた、ニカラグア東部ブルーフィールズのフアン・ホセ・エストラーダ率いる保守党が、政権打倒を目指して反乱を起こしました。反乱に加担し地雷の敷設に参加したとして2人のアメリカ人が捕らえられ、セラヤが2人の処刑を命じたことで、アメリカ合衆国は全面戦争の構えを見せました。

メキシコが調停を申し出たことで、セラヤは12月14日に辞任し、後任にホセ・マドリスが選出されました。アメリカ合衆国は、セラヤを失脚させることに成功しました。1910年5月には、アメリカ海兵隊が治安維持を目的にニカラグアに上陸しました。セラヤの後継のマドリスはニカラグア東部の反乱が再び激化したことで、最終的に辞任に追い込まれ、同年8月30日には、フアン・ホセ・エストラーダがアメリカ合衆国の承認を得てニカラグアの大統領に就任しました。

メナの反乱とアメリカ合衆国の軍事介入

新たに樹立した保守派のエストラーダ政権はアメリカ合衆国によるドル外交を許しました。この政策でアメリカ合衆国の銀行はニカラグア政府に資金を貸し付けることで、財政や金融といった中核機関を支配しました。陸軍大臣だったルイス・メナがエストラーダ大統領に辞任を迫ったことで政権が交代し、後任には副大統領を務めていたアドルフォ・ディアスが就任しました。エストラーダと同じく保守派だったディアスは比較的アメリカ合衆国と繋がりを持っていたため、ナショナリズムが高揚するニカラグア国内での人気は徐々に落ちていきました。

1912年半ば、メナは議会に自身を次期大統領に指名させましたが、アメリカ合衆国がこれを認めなかったため、やがてメナの反対運動は反乱へと繋がりました。ディアスは反乱を抑えるためにアメリカ合衆国に頼らざるを得ず、ウィリアム・タフト大統領に軍事介入を要請しました。その結果、アメリカ軍のその後10年以上に渡るニカラグア駐留を許すこととなりました。

ブライアン・チャモロ条約とサンディーノの抵抗

1914年8月5日、アメリカ合衆国国務長官ウィリアム・ジェニングス・ブライアンとエミリアーノ・チャモロとの間で、ブライアン・チャモロ条約が署名されました。ニカラグアは運河建設を放棄し、アメリカ海軍の駐留を認めました。これにより、ニカラグアは事実上のアメリカ合衆国の保護国となりました。

1927年、自由党のホセ・マリア・モンカーダらが保守党政権に対して内戦を始めました。アメリカ合衆国は再び軍事介入を行い、ニカラグアに軍隊を派遣しました。自由党側のアウグスト・セサル・サンディーノはニカラグア国民主権防衛軍を結成し、アメリカ軍の撤退を求めました。サンディーノはヌエバ・セゴビアの山中に拠点を置き、ニカラグアに駐留していたアメリカ軍をゲリラ戦に引きずり込んで攻撃しました。この抗戦はサンディーノ戦争とも呼ばれます。

1928年11月4日、アメリカ合衆国の監督下で大統領選挙が行われ、自由党のホセ・マリア・モンカーダが当選しました。その後もサンディーノのゲリラ部隊は拡大し、1930年までには5000人を超える人員を抱えていました。

占領の終焉とその後

1929年から1933年にかけてアメリカ合衆国から始まった世界恐慌は、アメリカ合衆国の対外積極策を変更させる1つの要因となりました。ハーバート・フーヴァー大統領はニカラグア内のアメリカ軍部隊の撤退を開始させました。フランクリン・ルーズベルト大統領は善隣政策を唱え、ラテンアメリカ地域への内政干渉を行わない姿勢をとりました。しかし、その目的は、1937年に発足したアナスタシオ・ソモサ・ガルシア政権を介する間接的な統治に移行することでした。ソモサはアメリカ合衆国の内諾を得て1934年にサンディーノを暗殺しました。

サンディーノによる抵抗運動は彼の死後にも影響を与え、[1962年]]に発足した[[サンディニスタ民族解放戦線]は彼にちなんでいます。FSLNはサンディニスタ革命を起こし、独裁体制を敷いたソモサ一族を倒しました。

もう一度検索