アメリンド大語族

アメリンド大語族：アメリカ先住民の言語の謎

1960年、言語学者ジョセフ・グリーンバーグは、アメリカ先住民の言語を包括的に分類する試みとして「アメリンド大語族」という概念を提唱しました。グリーンバーグは、アメリカ先住民の言語を大きく3つのグループに分けました。一つはエスキモー・アレウト語族、もう一つはナデネ語族、そして残りの全ての言語を包括したものがアメリンド大語族です。

しかし、このアメリンド大語族という分類は、他の言語学者によって広く受け入れられているわけではありません。その理由としては、アメリンド大語族に含まれる言語の多様性と、それらの言語間の系統関係を明確に示す証拠が不足している点が挙げられます。言語間の類似性は、共通の祖語から派生した結果であると断定するには、さらなる研究が必要とされています。

アメリンド大語族を構成する主要な語族

アメリンド大語族は、非常に多くの言語を含む巨大なグループです。その中には、以下の語族が含まれると考えられています。それぞれの語族は、さらに多くの下位語族や言語に細分化されます。

1. アルゴンキン・ウォキャシ大語族: 北米東部に広く分布。アルゴンキン語族（クリー語、オジブウェー語など）、ウォキャシ語族、セイリッシュ語族などが含まれます。

2. マクロ・スー大語族: アパラチア山脈から北米中西部に分布。スー語族（ラコタ語、ダコタ語など）が代表的です。ホカ語族と合わせて「ホカ・スー大語族」と呼ばれることもあります。

3. イロコイ語族: 東部北アメリカに分布。セネカ語、カユーガ語、モホーク語、チェロキー語などが含まれます。

4. ホカ大語族: カリフォルニア半島からメキシコ湾岸にかけて分布。ワショ語、キャロック語、ポモ語族、ユマ語族など多様な言語が含まれ、マクロ・スー大語族と併せてホカ・スー大語族とする説もあります。

5. ペヌート大語族: カリフォルニア州からメキシコ、グアテマラ、ベリーズにかけて分布。ツィムシアン語、ヨクツ語族、マイドゥ語族、ミヘ・ソケ語族（ミヘ語、ソケ語など）、マヤ語族（ユカテコ語、キチェ語など）などが含まれます。南米大陸のいくつかの言語を含むという説もあります。

6. アズテック・タノア大語族: ネバダ州、ユタ州、メキシコ西部に分布。ユト・アステカ語族（ナワトル語、ホピ語など）、カイオワ・タノア語族などが含まれます。ナワトル語はアステカ帝国の公用語でした。

7. オト・マンゲ大語族: メキシコ中部を中心に分布。チナンテク語族、オトミ語族、ミシテク語族、ポポロカ語族、サポテク語族など、多くの言語を含みます。

8. マクロ・チブチャ大語族: ホンジュラスからパナマ地峡、そして南米大陸の一部に分布。チブチャ語族、レンカ語、シンカ語、チョコ語族などが含まれます。

9. アンデス・赤道大語族: アンデス山脈からアマゾン川流域まで広く分布。ケチュマラ大語族（ケチュア語、アイマラ語など）が代表的です。ケチュア語はインカ帝国の公用語でした。アラワク語族、トゥピ語族、マクロ・パノア語族なども含まれます。

10. ゲ・トゥピ・カリブ大語族: ギアナ地方、ブラジル南部、パラグアイ、アルゼンチン東部などに分布。ゲ語族、トゥピ語族（グアラニー語など）、カリブ語族などが含まれます。グアラニー語はボリビアとパラグアイの公用語の一つです。

これらの語族以外にも、分類が困難な言語や、複数の語族にまたがる可能性のある言語も存在します。アメリンド大語族の研究は現在も継続されており、新たな知見が得られることで分類体系も変化していく可能性があります。 アメリンド大語族に関する研究は、アメリカ先住民の歴史や文化を理解する上で重要な役割を果たしています。言語の系統関係を解明することは、民族移動や文化交流の歴史を解き明かす手がかりとなるからです。今後、更なる研究によって、アメリンド大語族の構成や系統関係がより明確に解明されることが期待されます。

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