アラカン共産党

アラカン共産党（CPA）

アラカン共産党（The Communist Party of Arakan、略称：CPA）は、ミャンマー西部のラカイン州を活動拠点としていた、共産主義系の反政府武装組織です。その設立は1962年。それまで所属していた赤旗共産党（RFCP）から、一部のラカイン族幹部が分離・独立する形で誕生しました。

結成とその理念

CPAが結成される直接のきっかけは、1962年に赤旗共産党の議長タキン・ソーが、ラカイン族の部隊司令官をビルマ族の幹部に交代させたことに対する、ラカイン族幹部たちの強い失望でした。この人事決定に反発したチョーザンリーとボー・マウンハンというラカイン族出身の主要幹部が、RFCPを離脱し、新たにアラカン共産党を立ち上げたのです。

CPAの政策綱領には「赤旗の胎内から生まれた」と明記されている通り、思想的にはマルクス・レーニン主義を奉じていました。組織の規律なども、赤旗共産党のものをほぼそのまま引き継いでいたとされます。しかし、CPAは赤旗共産党がビルマ族中心だったのに対し、ラカイン族を主要な構成員としていたため、ラカイン州の独立という民族主義的な目標も同時に掲げていた点が大きな特徴です。アイルランドの解放闘争など、小国における共産主義運動に関心を持っていたとも言われています。

当時のラカイン族社会では、東パキスタン（現在のバングラデシュ）からのムスリム系住民（ロヒンギャ）の流入に関連する紛争よりも地域の安定を望む声が根強く、このためCPAはラカイン族の知識層からの広範な支持を得ることは困難でした。しかし、農村部の住民からは一定の支持を得ることができたようです。

他の武装勢力との関係においては、海上ルートを通じて兵器を供給していた新モン州党（NMSP）とは長期間にわたり友好的な関係を築いていました。一方で、同じラカイン州内で活動していたビルマ共産党（CPB）とは思想的な対立から敵対し、散発的な銃撃戦も発生していました。

活動の展開と組織の変遷

1963年、ミャンマー政府が武装勢力との和平交渉を主催した際、CPAもチョーザンリーを代表とする代表団を派遣しました。彼らは、交渉の進め方や国軍の撤退、ラカイン族の自治承認など複数の要求を提示しましたが、多くの勢力と同様に交渉は決裂。その後、CPAはラカイン州でのゲリラ活動へと本格的に移行しました。

1970年代前半の一時期には、ムジャーヒディーンの残党によって結成されたロヒンギャ解放党（RLA）と協力関係を結んだことがあります。これは、ラカイン族とロヒンギャという異なる民族の武装勢力による珍しい共同戦線でした。しかし、1972年から1973年頃にかけて、依然として赤旗共産党の影響を強く残していたチョーザンリーが、組織内部からの批判を受け、約50名の構成員と共にCPAを離脱するという事態が発生しました。残った約300名の部隊は、ボー・マウンハンが引き継いで率いることになりました。

1970年代後半には、ラカイン州全域でミャンマー国軍による大規模な掃討作戦が展開されました。CPAもこの作戦によって活動範囲を狭められ、ミャンマー・バングラデシュ国境地帯への撤退を余儀なくされました。1980年に政府が恩赦を実施した際には、かつてCPAを離脱していたチョーザンリーの一派が政府に投降しています。

組織の弱体化が進む中で、1985年には、アラカン独立機構（AIO）、アラカン解放軍（ALA）といった他のラカイン族武装勢力と同盟を結成し、アラカン民族統一戦線（NUFA）を結成しました。しかし、この統一戦線も激しい内部対立に悩まされ、その活動は低調に終わりました。

1986年5月には、マウンソーイン少佐に率いられたCPAの部隊が、ラカイン州のミンブラの町を一時的に占拠するという事件を起こしました。彼らは翌日、刑務所の囚人を解放し、集まった多くの住民の前でラカイン州の独立を宣言するという行動に出ましたが、すぐに国軍の反攻を受け、わずか2日後には国境地帯への撤退を強いられました。この撤退の過程で、隠匿していた構成員が逮捕されるという犠牲も出ました。

1988年の8888民主化運動の際には、かつてCPAを率いたチョーザンリーが他のラカイン民族主義運動家と共にアキャブ（現在のシットウェ）での抗議活動に参加し、アラカン人民連合機構（APUO）を結成しましたが、住民からの広範な支持を得るには至りませんでした。

組織の終焉

弱体化と再編の波の中で、1994年1月4日には、アラカン民族統一戦線（NUFA）が単一組織であるアラカン民族統一党（NUPA）へと改組されました。しかし、その翌年、CPA出身者とされる約70名のメンバーがNUPAから離脱し、新たな組織としてアラカン民主党（DPA）を結成しました。残存メンバーはNUPAに留まり、最終的に同組織に吸収されたと推測されています。これにより、アラカン共産党は実質的にその活動を終え、歴史の中で姿を消したと考えられています。

もう一度検索