アラカン解放軍

アラカン解放軍（ALA）

アラカン解放軍（ALA）は、ミャンマー連邦共和国のラカイン州を拠点とする反政府武装組織であり、アラカン解放党（Arakan Liberation Party, ALP）の軍事部門にあたります。長年にわたりミャンマー中央政府と対立してきましたが、2012年には政府との停戦合意を締結しました。

結成の背景

ALA結成の背景には、1962年のネ・ウィン将軍によるクーデター以降のミャンマー経済の低迷がありました。軍事政権下で経済の担い手であった中国人やインド人商人が排斥され、非効率な統治機構が導入されたこと、政府による低価格での農作物強制買上げが農民の生産意欲を削いだことなどにより、主要輸出品である米の生産量は減少の一途をたどります。さらに、ビルマ共産党（CPB）やカレン民族同盟（KNU）といった反乱軍が、最大の穀倉地帯であるエーヤワディー地方域のデルタ地帯を攻撃し、インフラストラクチャーや流通網を破壊したことも生産量の低下に拍車をかけました。

この状況は1967年に危機的段階に達し、米生産量は前年比で大幅に落ち込みました。これが引き金となり、国民の不満が爆発。全国各地で米不足を巡る騒動やデモ、焼き討ちが発生しました。特にラカイン州のアキャブ（現在のシットウェ）では、同年8月12日から13日にかけて大規模な暴動が発生し、港に停泊していた貨物船や精米所、警察署などが襲撃されました。治安部隊の発砲により多数の死傷者が出たとされ、この事件は「米殺しの日（Rice Killing Day）」と呼ばれています。

この「米殺しの日」事件を契機として、ラカイン族の歴史家ウー・ウータトゥンの支援を受け、KNUの協力のもと、カインモールンという人物がヤンゴンで若者、僧侶、労働者、政治活動家を集め、ALPを結成しました。彼らは軍事技術習得のため、本来の目的を隠してミャンマー海軍に入隊しますが、1968年11月、アキャブからの武器弾薬窃盗計画が仲間の裏切りによって露見し、集合場所で全員が逮捕、投獄されるという最初の試みは失敗に終わりました。

再結成と壊滅

1972年に恩赦で釈放されたカインモールンは故郷に戻りますが、翌年には武装闘争再開を決意し、KNU支配地域であるコウムラへ赴きました。かつての仲間たちも合流し、厳しい軍事訓練を経た後、1974年6月1日にALP/ALAを再結成しました。カインモールンは議長兼軍最高責任者に就任し、1976年には少数民族武装勢力の統一戦線である民族民主戦線（NDF）の創設メンバーにもなりました。

KNUの軍事部門であるカレン民族解放軍（KNLA）の下で約3年間戦闘経験を積んだ後、1976年6月、ALAはラカイン州への帰還を目指し、120名以上のメンバーがカレン州から約2000マイル（約3200km）の長旅に出発しました。しかし、1977年2月に到着したチン州で、約6000名規模の国軍およびインド軍合同部隊による攻撃を受けました。70回以上に及ぶ衝突の末、弾薬・食糧が尽き、カインモールンは降伏を拒んで自決、約50名の兵士が戦死しました。その後、逮捕・投降した者たちの多くが略式処刑されるか、軍法会議で死刑や終身刑を宣告され、組織は壊滅的な打撃を受けました。

再々結成と停滞

1980年の恩赦により、かつて投獄されていたALA関係者も釈放されました。1981年、コウムラにおいて、現在まで議長を務めるカインイェカインによってALP/ALAは再び再結成されました。以降、ALAの主力部隊（約50～100名）はKNUの支配地域に置かれたままであり、今日に至るまでラカイン州内で大規模な武装闘争を本格的に展開することはありませんでした。

1985年にはアラカン共産党（CPA）、アラカン独立機構（AIO）と共にアラカン民族統一戦線（NUFA）を結成しましたが、ラカイン州における反政府武装活動全体の停滞と共に、NUFAの活動も振るいませんでした。1988年の民主化運動（8888運動）を機にNUFAは拡大し、この際にAIOとALAは一時的に合併しました。ALAとNUFAはタイ・ミャンマー国境地帯で結成されたビルマ民主同盟（DAB）の設立メンバーとなりますが、参加組織が次々と政府との停戦合意に応じてDABを脱退したため、DABも形骸化しました。

長年にわたりALAを支援してきたKNUが2012年1月12日にミャンマー政府と停戦合意を締結した影響もあり、ALPも2012年4月5日に政府との停戦合意に署名しました。さらに2015年10月15日には全国停戦合意（NCA）にも署名しています。しかし、ラカイン州で本格的な戦闘経験がほとんどないALPが、ラカイン州の主要武装勢力代表としてNCAに署名したことは、アラカン軍（AA）など、ラカイン州で活発に活動する他の武装勢力からの不満を引き起こしました。

2021年クーデター後の状況

2021年のクーデター発生後、2022年にはALP/ALAは議長のカインイェカイン派とカインソーナインアウン派に分裂しました。カインイェカイン派は軍事政権である国家行政評議会（SAC）への対抗姿勢を示しています。

2023年1月4日、ALA最高司令官のカインソーミャを含むALP/ALAの幹部3名が、軍事政権主催の独立記念日祝賀会からの帰路、何者かによって射殺される事件が発生しました。ALAはこの事件について、アラカン軍（AA）の関与を強く非難しています。また、2024年5月にシットウェ郡区ビアンピュー村で発生した、国軍による住民虐殺、強姦、家屋焼き討ちとされる事件（ビアンピューの虐殺）についても、AAはALAが関与したとして非難するなど、ALAとAAの関係は緊迫しています。

反ロヒンギャの姿勢

ALAは、ロヒンギャに対する明確な反対姿勢で知られています。民族民主戦線（NDF）へのロヒンギャ愛国戦線（RPF）の加盟には断固として反対し続けました。また、カマン族の妻を持つ「アラカン系ムスリム」を自称するウー・チョーフラが結成したアラカン解放機構（ALO）が、非ロヒンギャ勢力としてNDF加盟を試みた際も、ALAはこれに反対し、その動きを頓挫させました。さらに、2000年にラカイン族とロヒンギャの武装勢力が同盟を組んだアラカン独立同盟（AIA）がタイ・ミャンマー国境に軍事基地を設立しようとした試みも、ALAによって阻止されています。これらの事例から、ALAがロヒンギャ勢力の台頭や他の民族との連携に強く反発してきたことがうかがえます。

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